HOME > 各班の活動報告

本プロジェクトで実施した出版,調査航海,講演,国際交流など,各班の様々な活動についてご紹介いたします。

I黒潮圏資源研究の推進

I-1海底鉱物?エネルギー資源の基礎研究

I-1海洋鉱物?エネルギー資源の基礎研究[2021]

メタンハイドレートを琉球海溝ではじめて発見

 農林海洋科学部の村山雅史教授,農林海洋科学専攻(大学院)学生の瀬戸口亮眞氏,宮本好洋氏,田代昂士氏らは,神戸大学,琉球大学,海洋研究開発機構,金沢大学らと共同で,琉球海溝北部の種子島沖海底泥火山の調査航海をおこないメタンハイドレートを採取しました(図1)。日本周辺の海域において南海トラフよりも南西の琉球海溝でメタンハイドレートが発見されたのはこれが初めてです。

 本研究航海は,2021年12月28日~2022年1月6日(和歌山―横須賀)にかけて,東京大学大気海洋研究所の沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网3年度の全国共同利用で海洋研究開発機構の研究船「新青丸」を用いて実施されました。この航海では,種子島沖に分布する海底泥火山群(*1)において,泥火山の活動度および放出される海底下深部起源のメタン,微生物,炭素物質の量を見積もり,泥火山活動による海洋?生物環境への影響を明らかにすることを目的としています。過去の調査で,種子島沖には数十以上の泥火山が広く分布していることが明らかになっており,今回は,そのうち3つの泥火山で,採水?採泥調査,地球物理探査を行いました。このうち1つの泥火山の山頂付近にてピストンコアラーで海洋コアを採取し,船上でコアの中身を確認したところ,海底面から約1mの深さに塊状のメタンハイドレートが約20cmの厚さで入っていることが発見されました(図2)。これらのコアは,海洋コア総合研究センターに運び込まれ,海洋コアの構造解析,年代測定,採取したメタンハイドレートの構造や,ハイドレートに含まれるメタンや水の詳細な化学分析を行い,メタンの起源や生成深度,供給メカニズムを調べます。将来のエネルギー資源として,種子島沖海底のメタンハイドレートの分布,存在量および炭化水素資源の形成要因や規模,炭素循環について明らかにしていく予定です。

*1)海底泥火山:泥火山は,地下深部で形成された泥質流体(水やガスを多く含む泥質堆積物)が表層に噴き上がってできた円錐形の高まりで,世界各地の大陸縁辺域に分布している。日本周辺では紀伊半島沖熊野灘と種子島東沖に多く存在していることが知られている。

種子島沖の調査海域

船上において,海洋コア中に確認されたメタンハイドレート層

“Perspectives on Deep-Sea Mining: Sustainability, technology, environmental policy and management”の出版[2021]

 深海鉱物資源の商業開発が現実問題として話題になるなかで,実は多くの未解決の課題が山積しています。海底資源開発を論ずる上で共有すべき現状について,資源探査,開発技術,生態保全,経営および国際法の専門家が,23編の論文としてまとめた689ページの大作” Perspectives on Deep-Sea Mining: Sustainability, technology, environmental policy and management (Springer)”が2022年3月に出版されました。日本からの4編の論文のうち,I-1班の臼井およびプロジェクトリーダーの佐野が,以下2編の著者となっています。

? Geological Characterization of Ferromanganese Crust Deposits in the NW Pacific Seamounts for Prudent Deep-Sea Mining. A. Usui & K. Suzuki

Secondary Ion Mass Spectrometry Microanalysis of Platinum in Hydrogenetic Ferromanganese Crusts. Y. Morishita, A. Usui, N. Takahata & Y. Sano

 URL

 ISBN: 978-3-030-87982-2

Perspectives on Deep-Sea Mining

地殻流体研究分野における人材育成[2021]

 2016年以降,研究面では12報の査読付国際誌に研究成果を発表しています。内訳は鉱物資源研究5報(海底4?陸1),地殻変動に関わる流体研究4報(地震3?火山1),地殻流体の基礎研究2報,古海洋環境変動研究1報と,4次元黒潮圏資源学の創成プロジェクト期間中に年間平均2報のペースで査読付国際誌に発表しました。また,現在投稿中1報と執筆中論文1報があります。2020年度から科学研究費基盤B「湧水の多元素同位体から西南日本と東北日本の沈み込みプレートの脱水様式の違いを探る」が代表研究として採択されています。2021年度現在の科学研究費の分担者としても,1課題の基盤Aと2課題の基盤Cが採択されました。4次元黒潮圏資源学の創成プロジェクト開始時には海洋研究開発機構から沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网に移動した直後であり暗中模索でしたが,本プロジェクトによって研究室運営もようやく軌道に乗ることができました。

 教育面では2022年1月現在に研究室には3年生3名と4年生3名(全て大学院修士課程に進学予定)と6名の学生の在籍があり,本プロジェクトの進行と共に研究室も人が集まるようになってきました。主体的に学びにつながるように,学生研究では可能な限り学生自身が採取した地球科学試料を用いるようにしています。写真は学生がそれぞれ調査研究を行う前に,データ取得済の地点を研究室で巡検を行った際の風景です。このような巡検に何度か参加してもらった後に,それぞれ担当する地域を学生自身で調査研究してもらっています。加えて,高知コアセンターに関わる学生が発表するコアセミナーで研究室以外の方の前で半年に1回の発表を行うことは,学生が大きく成長する機会となっています。2021年10月からは,手法は異なるが同じ研究目的をもつ他大学の5研究室合同でオンラインセミナーを2ヶ月に1回行い,同じ研究目標をもつ者同士で意見を交換する楽しさを知り,他人にはない自身の良さを見出し伸ばす機会となることを期待しています。

データ取得済地点の巡検時の風景

I-1海洋鉱物?エネルギー資源の基礎研究[2020]

レアメタルを使った新しい分子を創り、その特性を調べる。
-ポリオキソメタレートの化学-

複合領域科学部門 上田忠治

 ポリオキソメタレート(POM)は、レアメタルに指定されているタングステンと硫黄等が酸素 を介して結合した金属一酸素クラスタです。我々の研究室では、このタングステンの一部を別の遷移金属に置き換えたPOMの合成に関する研究を長年行ってきました。

 その結果、既報の[SW12O40]2-を出発物質として、弱塩基によって処理することで、タングステンが欠損した[SW11O39]6-を合成し、さらに様々な遷移金属イオンと反応させることで [SMW11O39]4- (M=Mn, Ni, Cu, Co)が生成することを見出しました(Dalton Transaction, 2020, 49, 2766-2770に掲載され表紙にも採用されました)。これらは、導入された遷移金属に応じて、様々な化学的性質を示しています。また、POMは、多くの電子を可逆に授受できる性質(酸化還元特性)があります。しかも、還元される程度に応じて、溶液中の水素イオンやリチウムイオンと会合します。  この性質を利用しで燃料電池やリチウムイオン電池の電極材料としての研究も行われています。しかし、水素イオンやリチウムイオンと会合を伴うPOMの酸化還元反応機構の定量的な解析は、ほとんど行われていませんでした。

 この性質を利用しで燃料電池やリチウムイオン電池の電極材料としての研究も行われています。しかし、水素イオンやリチウムイオンと会合を伴うPOMの酸化還元反応機構の定量的な解析は、ほとんど行われていませんでした。

 当研究室では、NMR、ESRおよびサイクリックボルタモグラムのシミュレーションを併用して、POMの酸化還元反応機構の定量的解析を行ってきました。2020年には、リチウムイオンが存在するアセトニトリル中における[XVM11O40]4-(X=P,As; M=Mo, W)のPOMの酸化還元反応機構の定量的解析に成功し、リチウムイオンとの会合定数などを算出することができました(Inorganic Chemistry, 2020, 59, 10522-10531に掲載されCover Articleに採用されました)。これらの値は、POMをリチウムイオン電池の電極材料としての研究において重要な基礎的データとなります。

「土佐沖メタンハイドレートの実用?商用化にむけて」2021年版の提言[2020]

 2015年9月に土佐経済同友会「メタンハイドレート推進委員会」より『土佐沖メタンハイドレートの実用?商用化に向けての提言』を受け、本構想を実現化するために、県内の産官学を中心とした関係機関の連携により、「土佐沖メタンハイドレート実用?商用化プラットフォーム研究会」は、2018年3月よりスタートしました。昨年には、当会で実用?商用化を実現するために、独立行政法人石油天然ガス?金属鉱物資源機構(JOGMEC) が公募をした『国内石油天然ガス基礎調査(基礎物理探査)調査候補地の提案募集』へ産官学が連携 をし、新規調査候補地として土佐沖で応募しました。

 世界初のメタンハイドレートの実用化を目指し、県内では、地産地消のエネルギー源としての実用?商用化を目指す2021年版の提言について、県内外に周知すべく報道発表を行いました。

 

掲載論文紹介:Global diversity of microbial communities in marine sediment.(浦本豪一郎)[2020]

内容紹介:浦本豪一郎講師を含む研究グループの論文が米国科学アカデミー紀要CIF=9.4 l 2)(沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网2年10日20日付け)に掲載されました。本研究では地球規模での海底堆積物中の微生物多様性を世界で初めて調査しました。その結果海底堆積物内の環境は生命維持に必要な エネルギー供給の極めて乏しい環境であるにもかかわらず、そこに生息する微生物の多様性が、エネルギー供給の多い陸上土壌や海洋などと同等であること、地球に存在する全微生物群集において、バクテリア(真正細菌)がアーキア(古細菌)よりも圧倒的に多様であることを初めて示しました。

日本堆積学会論文賞を受賞[2020]

 浦本豪一郎講師が、堆積学の発展に貢献する研究論文を発表したことを評価され、日本堆積学会論文賞を受賞しました。

 受賞対象の論文は「Significant contribution of subseafloor microparticles to the global manganese budget」(Uramoto et al., 2019, Nature Communications掲載)で、外洋域の深海堆積物中に膨大な鉄マンガン酸化物の微粒子(微小マンガン粒)を発見し(海底下全体で約10の29乗個のオーダー)、その形成モデルを提示し、海底地下の金属賦存量の認識において、実態が不明だった海底下マンガンについて微粒子状態で保持されている実態を突き止めました。これらの成果は、堆積学に加え、鉱物学や鉱床学、物質循環等に関わる幅広い分野に大きな影響を与えたものと評価されました。

 

論文賞賞状

小河脩平講師が、「沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞」を受賞しました![2020]

 小河講師は、触媒化学を専門とし、化学反応を低温で進めるための触媒材料ならびに反応場の開発を行っています。受賞業績となった「新規反応場による低温での触媒反応の研究」では、希土類酸化物をベースとした触媒材料を活用し、新しく開発した反応場(少しだけ電気エネルギーを加える手法)を適用することで、メタンを効率的に水素やプラスチック原料に転換することに成功するなど、海底資源(レアメタル?メタンハイドレート)の利活用にも繋がる成果を挙げています。

若手科学者賞賞状

若手科学者賞メダル

黒潮圏がほこる謎の温泉資源を探る[2020]

 地下の水の動きを知ることは鉱物やエネルギーの資源や地震といった地殻変動の理解につながります。四国をはじめとする西南日本の太平洋に面した地域(黒潮圏)が、地下深くから上昇する水の恩恵を受けている場所であることは あまり知られていません。図は、日本の温泉の分布です。地下の岩石と高温で反応した結果である温泉水の湧出は、熱源となるマグマが地殻上部にある火山周辺に多く見られます。一方、火山がなく、温泉水を作り出す高温場が地下深くにしかない海溝に近い地域(前弧域)では、東北日本のように温泉が少ないことが特徴です。しかし、図のように、西南日本の太平洋側(黒潮圏)には温泉が多い。西尾研究室では、地下深部の水に関して、温泉水の研究で伝統的に用いられてきた化学ツールに比べて桁違い高感度で新しいツールであるリチウムの同位体指標を軸に用いて、日本の前弧域の温泉の調査研究を進めています。2020年度から科学研究費の基盤研究(B)としで研究計画『湧水の多元素同位体から西南日本と東北日本の沈み込みプレートの脱水様式の違いを探る』が開始されました。温泉というと風呂のイメージが強いですが、温泉成分が希薄な湧水は、飲用水や農業用水、さらには神社などの信仰に日本人は利用してきており、地球科学?水文学·生命科学?地形学等の理学分野から、農学や人文科学を含めた広い学問分野に新しい『つながり』をもたらす可能性をもっています(西尾嘉朗)。


図:日本温泉協会出版「温泉」より大山正雄氏作図に追記。
神奈川県温泉地学研究所web掲載

[https://www.onken.odawara.kanagawa.jp/hotspring/onsen_kouza/20200511-03.html]

高知県浦ノ内湾における人新世以降の底質環境変化の解析[2020]

 2019年3月に、浦ノ内湾において音波探査による海底地形調査、海洋コアの採取などを学内調査船「ねぷちゅーん」をもちいておこないました。特に、環境汚染の負荷が大きい湾奥の嗚無(おとなし)神社前で採取された海洋コア(4M)には過去数千年の環境史が記録されています。浦ノ内湾における自然環境の歴史から、「人新世(Anthropocene)」とよばれる1800年代の産業革命以降、さらに1950年代以降、人口の増加が著しくなり人間の自然への影響を解明する上で貴重な試料です。

 「人新世」における底質環境の変化から、海洋汚染の実態とその履歴の解明をおこなう必要があります。特に、内湾の汚染物質の環境への負荷とそれらの挙動、生物相の変化を明らかにすることが必要です。現在、海洋コアの物性や重金属、有機物、貝化石の変遷、環境DNAなどの解析が進行中です。これらの研究は、本学が取り組むSDGs(持続可能な開発目標)の1つである「海の豊かさを守ろう」に関連するプロジェクトの一つです。

写真1:調査船「ねぷちゅーん」による海底コアの採取の様子

写真2:浦ノ内湾奥の鳴無神社前で採取された海洋コア(4M)のX-CT画像。
各セクションの長さは約1メー トル。多くの貝殻片が白く写っています。

I-1海洋鉱物?エネルギー資源の基礎研究[2019]

種子島沖の泥火山調査-学術研究船「白鳳丸」KH-19-5次航海参加-

 2019年8月9日から20日間,学術研究船「白鳳丸」KH-19-5次航海に理学専攻学生(M2)1名と農林海洋科学部教員2名,4年生3名と共に参加し,種子島沖の海底泥火山調査を行いました。海底泥火山とは,海底深部にあるガスや間隙水を含む半固結堆積物が,高間隙水圧になり上位の地層を巻き込みながら海底に上昇し噴出した地形的高まりのことです。その過程で,メタン等の炭化水素や,間隙水などの物質が地下深部から海底面に移動する地球科学的にも特殊な現象で,メタンハイドレートなどの海底資源の形成に関与しています。

 これまでの調査で,プレート境界域に位置する種子島沖には,泥火山が15個密集しているのが発見されています。今回は,水深1,200mと水深1,400mの2つの泥火山頂上で,海底をカメラで視認しながらピンポイントで試料採取ができるNavigable Sampling System(NSS)を使って(写真1),海底の観察や海底堆積物の採取(写真2)を行いました。また,泥火山直上水の採取も行い,その特徴と含まれているガス成分についても研究することにしています。今後,これらの堆積物試料から,物性や年代および起源や熱履歴,さらには含まれる微生物の種類と役割などについても解析していきます。

浦本特任助教が,沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网元年度沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网研究顕彰制度
「若手教員研究優秀賞」に選ばれました!

 浦本特任助教は,地質学の研究を専門としながら,微生物学や土壌学など異分野融合の手法にて研究を行っています。主な研究業績として,南太平洋環流域の外洋深海底堆積物から,直径数ミクロンの鉄マンガン酸化物微粒子が,堆積物1ccあたり1億~10億個存在することを世界で初めて発見し,こうした微粒子が膨大な金属を微粒子状形態で深海底地下に保持することを突き止めたことが挙げられます。

 また,沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网元年度に科学技術振興機構(JST)さくらサイエンスプラン採択事業で海洋コア総合研究センター初の「国際コアスクール」開催に事業実施担当者として尽力し,センターの推進する海洋科学掘削分野の国際的な活性化に貢献しました。

ホームページのURL:/information/2020021000016/[沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网HPより引用]

写真1:学術研究船「白鳳丸」KH-17-3次航海で用いられたNavigable Smpling System (NSS)

写真2:種子島沖の海底泥火山上で採取された堆積物試料(CT画像)角礫を多く含み、ガスが発砲した痕跡が残る特殊な堆積物

海洋コア総合研究センター
浦本豪一郎 特任助教

「4次元統合黒潮圏資源学の創成」特別講演会[2019]
 「海洋鉱物資源開発の最新動向」

独立行政法人 石油天然ガス?金属鉱物資源機構金属資源技術部海洋資源技術課担当調査役 山路 法宏氏

 2020年2月21日午前10時30分より物部キャンパス5-3教室にて,独立行政法人石油天然ガス?金属鉱物資源機構(JOGMEC)の山路法宏氏による特別講演会「海洋鉱物資源開発の最新動向」が行われました(参加者32名)。陸上鉱山開発と海洋鉱物資源開発との違いや国際動向および日本の政策に始まり,日本の海底熱水鉱床開発の詳細(資源量評価,採鉱?揚鉱技術,選鉱?製錬技術,環境影響評価,経済性検討)についての最新の成果と今後の展望について分かりやすく説明して頂きました。講演後は,会場から多くの質疑があり,活発な議論が行われました。

山路氏(JOGMEC)による特別講演会の様子

海洋コア総合研究センターにおいて初めての国際コアスクール開催[2019]

 海洋コア総合研究センターは,科学技術振興機構(JST)のさくらサイエンスプランの支援を受けて,韓国(4名)?中国(3名)?台湾(2名)の大学院生やポスドクを招へいし,2019年11月13日~20日に,海底から掘削された柱状試料 (コア)の分析や試料保管に関する講義や技術指導を行う研修プログラム「国際コアスクール」を初めて開催しました。

 本スクールでは,まず,海底掘削の国際プロジェクト(国際深海科学掘削計画,IODP)の枠組みと海底掘削船で行われるコア解析の概要について,研究者や技術職員が紹介しました。その後,高知県沖の水深約1,000mの海底から掘削されたコア試料について,参加者自身で国際プロジェクトの掘削船上と同様のコア観察や専門的な試料分析を行いました。専門分野の分析では,コアに含まれる化石の安定同位体分析や,コアの物理的性質の計測や磁気分析を行いました。最後に各実習で得られた結果を発表し,過去の気候変動や海洋環境の変化と地層形成の関係を活発に議論し,盛会のうちにプログラムを終了しました。

スクール終了後の集合写真

西井文部科学省学術機関課長一行が海洋コア総合研究センターを視察[2019]

 2019年10月4日,西井知紀文部科学省研究振興局学術機関課長,吉居真吾同課課長補佐,泉正年同課係員が本学の海洋コア総合研究センターを視察され,その一環として,レアアース泥として注目される海底堆積物を間近に,本プロジェクトの取り組み状況や研究成果事例(Uramoto, et al., 2019, Nature communications, 10(1):400)が紹介され,活発な質疑応答がなされました。

コア試料を観察する様子
海底鉱物資源として注目されるマンガン酸化物の微小粒子を大量に含む

地磁気シールド室では方位磁石が使えないことを体験
地球磁場を遮り古地磁気を測定,年代等推定する

臼井朗特任教授が“マンガン団塊”の分野における過去の発表論文数ランキングの6位![2019]

 我が国は,北太平洋に広大なマンガン団塊およびコバルトリッチクラストの専有探査鉱区を保有し,資源探査や国際技術者研修を実施しています。沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网は,現在これらの事業に協力し,現地調査や研究,教育の面で貢献しています。国際海底機構(ISA)の事務局長は「SDGsを目指した海洋資源開発を実現する鍵は海洋科学研究である」との談話を発表し(2019年5月),科学研究の重要性を訴えています。先日,ISAのホームページの一部Bibliographic Database(研究論文データベース)が更新されました。

 その中で,沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の海底鉱物資源に関わる研究論文(第1版:マンガン団塊)著作者分析の項目において,海洋コア総合研究センターの臼井朗特任教授がmost prolific authors(論文数)ランキングで世界6位に位置づけられました。沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网での海底鉱物資源(マンガン団塊やクラスト)に関する研究の意義が認められたことになります。今後,さらに成果の社会への貢献が期待されています。ホームページのURLhttps://www.isa.org.jm/bibliographic-database[沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网HPより引用]

マンガンクラストの潜航調査のため,しんかい6500に乗り込む臼井特任教授

レアメタルを使って新しい機能性分子を創る[2019]

新規金属置換ポリオキソメタレート錯体の反応経路

I-1海洋鉱物?エネルギー資源の基礎研究[2018]

外洋深海底堆積物から大量の金属鉱物微粒子
「微小マンガン粒」を発見

 浦本豪一郎特任助教(海洋コア総合研究センター)は、国立研究開発法人海洋研究開発機構などと共同で南太平洋の外洋深海底堆積物を広域的に調査?分析した結果、直径数ミクロンの鉄マンガン酸化物微粒子「微小マンガン粒」が、堆積物1ccあたり1億~10億個存在することを世界で初めて発見しました。微小マンガン粒は既知の海底マンガン団塊やマンガンクラストと同様にレアメタルやレアアースを含むと共に、地球全体で1.28~7.62Tt分に相当するマンガンを含むことが世界で初めて推定されました。これは、マンガン団塊やマンガンクラストに含まれるマンガンの100倍以上が、海底地下に微粒子の形で埋没することを示します。海洋におけるマンガン賦存量の認識を大きく押し上げるもので、Nature Communicationsに成果が掲載されました。また、農林海洋科学部1期生が初めて参加した日本近海の海底鉱物資源探査航海で得られた海底堆積物からも微小マンガン粒が発見されており、今後、微粒子解析に基づく新たな海底鉱物資源研究の展開が期待されます。本成果は、文部科学省でプレスリリースを行い、11件のテレビ報道?新聞記事掲載されるなど、大々的に報じられました。

高知県沖の宝石珊瑚に関する地球化学的研究

 高知県は日本で初めて宝石珊瑚漁が行われた場所であるとともに、現在でも宝石珊瑚漁?取引?加工業の国内の一大拠点です。宝石珊瑚は、比較的浅いところに生息する造礁珊瑚とは異なり、水深約100m以深で生息していることから、その生態や分布、資源量等に関する科学的研究はまだまだ進んでいません。沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网海洋コア総合研究センターでは、NPO法人宝石珊瑚保護育成協議会と日本珊瑚商工共同組合の協力の下、高知県沖の宝石珊瑚に関する地球化学的研究を進めています。

 宝石珊瑚は、生きたまま漁獲される「生木」と、死後の骨格が残って化石状態で漁獲される「枯木」に大きく二分され、そのうち枯木は取引量の約8割を占めます。

 高知県足摺沖の漁場から採集された宝石珊瑚の枯木を対象として、放射性炭素年代測定を行ったところ、一番古いものは紀元前約5600年前に死亡したものであることが分かりました。また、測定した枯木の多くは、漁業活動が始まった明治初 年(1871年)よりも古い時代に死亡していることが分かり、漁業活動による人為的要因で死滅したのではなく、寿命や捕食?環境変動といった自然要因で死滅したと考えられます。この結果は、枯木の宝石珊瑚を化石資源として扱う必要性を提起するとともに、漁獲管理や資源量把握のために必要な科学的データとなると期待されます。この研究成果は、2018年6月28日に行われた宝石珊瑚国際フォーラム2018で発表するとともに、高知新聞、日本経済新聞に取り上げられました。

「微小マンガン粒」の電子顕微鏡写真
直径は、数ミクロン

紀元前5600年前に死亡した枯木宝石珊瑚

沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网海洋コア総合研究センター設立15周年記念公開シンポジウム
「地球を掘ってわかること~古地震、気候変動、地球の姿~」[2018]

 高知市内の図書館等複合施設「オーテピア」において、沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网海洋コア総合研究センター設立15周年記念公開シンポジウムが、本プロジェクト共催のもと開催されました。平成30年11月30日(金)午後~12月1日(土)午前にかけ、地球掘削科学共同利用共同研究拠点の成果が口頭?ポスターで発表されるとともに、今後の展望について公開討論を行いました。

潜水調査船による福島沖のマンガンクラスト調査(YK18-E02C航海)[2018]

 2018年10月に福島沖の海山において、JAMSTECと沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网等は、次世代海底鉱物資源の一つである、マンガンクラストが、我が国EEZのいわき海山に広い水深帯(1800-5500m)にわたって、広く分布していることを確認しました。しんかい6500により、現場の条件や産状が明確なサンプルが大量に採取され、現在、6機関が協力?連携しつつ、その成因を探る研究が進行中です。沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网はその中心となって、分布状況や組成変動と生成環境の解明をめざした研究をリードしています。〈JAMSTEC提供〉

I-1海洋鉱物?エネルギー資源の基礎研究[2017]

 コバルトリッチクラストやマンガン団塊の調在?研究航海を実施!

●かいれいKR17-07C研究航海では、本州から約350km沖に位置する拓洋第3海山(巨大平頂海山)の斜面から有用な資源として注目されるコバルトリッチクラストが採取されました(図1)。これらは、内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の課題「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」の一環として実施されたものです。本学から教員2名、学生3名が参加し(図2)、採取された試料の産状、形成や成長プロセスなどの成因解明の研究がおこなわれています。

●白鳳丸KH-17-03次研究航海では、バンクーバー沖の海底調在が実施され、形成初期のマンガン団塊が多数採取されました。本学から教員1名、学生1名が参加し、マンガン団塊の物性や化学分析、および、周囲に存在する海水や堆積物などの環境情報とあわせて、形成メカニズムの総合研究が開始されました。

レアアース資源として注目されるレアアース泥の研究成果!
 レアアース泥中の間隙水に関する成果が「Geochemical Journal」に掲載予定です。

進展する地殻流体研究!
 2016年鳥取地震前の地下水の地球化学異常に関する論文が「Scientific Reports」に掲載予定です。これまでに得られた研究成果をもとに、日本学術会議主催の地球惑星科学分野大型研究計画ヒアリング(マスタープラン)に『地殻深部流体科学』の提案者の1人として 参加します。

レアメタルの利活用を目指す!
 様々な希土類金属を導人した無機高分子化合物である新規ポリオキソメタレー ト錯体の新規合成に成功し、多 くの学会でその成果が発表されました。また、酸性アセトニトリル中における電気化学的酸化還元反応機構の定量的解明にも成功し、「Inorganic Chemistry」にその成果が掲載されました。

海に関する特別講演!(図3)
 科学の目から見た「海と私たちの暮らし」について、高知南高校において講演しました。

図1: 拓洋第3海山から採取されたコバルトリッチクラスト(厚さ約13cm)

図2:かいれいKR17-07C研究航海の乗船メンバー

図3:高知南高校で海についての特別講演をおこなう臼井教授

研究の最先端で学ぶ[2017]

 地殻流体研究室では沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の4年生が卒業研究として断層湧水の同位体測定に取り組みました。(写真1)は、断層湧水から同位体分析の対象元素を分離精製した後に、質量分析の前準備を行っている様子です。若くて温かいスラブが沈み込むことで他よりのスラブからの脱水が起こりやすい特異な西南日本域の地下水へのスラブ起源流体の寄与が見えてきました。得られた結果は、卒業研究発表にとどまらず、研究会でも発表しました(写真2)。

写真1

写真2

共同研究により「北西太平洋域の海底鉱物資源図」を刊行[2017]

 日本列島周辺は、プレートの作用に伴って、活発な地質活動が起きています。地震、火山噴火などの災害を引き起こす一方、地質時代から、多様な 金属鉱物資源を生み出し続けていることが特徴です。周辺の海底には、陸上の金属鉱床と同等あるいは上まわる鉱物資源が分布しています。なかでも1)海底熱水鉱床(硫化物に伴う金銀銅鉱床)、2)マンガンクラスト鉱床(酸化物に伴うレアメタル鉱床)が注目されており、我が国は、両者が近接して分布する非常に有利な位置にあります。しかし広大な地域の資源分布の全容は依然として曖昧です。

 沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网では、海洋コア総合研究センターを中心に、金属鉱物資源の成因にかかわる内閣府のプロジェクトや科学研究費研究課題、民間会社等との共同研究などを通じて、資源分布、成因に関わる地球科学的研究を続けています。 平成29年度には、産総研との共同研究に基づいて、金属資源分布図を作成、出版しました。北西太平洋域の広域的分布の全体像を知ることが出来る重要な図が完成しました。

北太平洋域における海底資源調査
コディアック(米)?バンクーバー(加)[2017]

 2017年7月から学術研究船「白鳳丸」KH-17-3次航海に理学部学生1名と参加し、北太平洋域の海底資源調査をおこないました。北東太平洋域でのマンガン団塊の発見やアラスカ湾における海底堆積物や海水の採取など大きな成果がありました。特に、水深3600mの海山上では形成初期と考えられるマンガン団塊(大きさ数cm)が数多く発見されました。100万年で数ミリしか成長しない「化学堆積岩」と呼ばれるマンガン団塊の形成メカニズムを解明する上で貴重な試料です。

 また、アラスカ湾では水深ごとの約10mの海底堆積物の採取に成功しました。近年の地球温暖化によって、最も早い速度で消失しているアラスカ山岳氷河の淡水の影響により,海水表面の塩分低下が、アラスカ湾だけでなくベーリング海峡にまで及んでいます。このようなアラスカ山岳氷河からの淡水供給が、海洋にどのような影響を与えるのか? 氷期—間氷期を繰り返してきた過去にも同様な現象が起こっており、海洋表層の塩分の復元から氷河融解量の推定と水塊の鉛直構造の復元、あるいは、バクテリアや植物プランクトンの種構成の変化、魚類相の応答などを解析することにしています。

学術研究船「白鳳丸」KH-17-3次航海の航路図

アラスカ湾で採取した約10mの海洋コア

アラスカ湾にてアラスカ山岳氷河を望む

Techno-Ocean 2016 Student Poster Competition受賞[2016]

 Techno-Ocean 2016 Student Poster Competitionにおいて,指導学生(清野雄太:早稲田大学理工学術院大学院生)が,「Imaging hydrothermal mineral deposits area by reflection seismic processing using Vertical Cable Seismic and Ocean Based Sound Source」の題目で受賞しました。


KR16-13航海[2016]

 海洋研究開発機構(JAMSTEC)の調査船「かいれい」による戦略的イノベーション創造プログラムにおける調査航海を行ないました。


菱刈鉱山の視察[2016]

 鹿児島県北部で日本国内唯一、金の商業的採掘を行なっている菱刈金鉱山を視察しました。この鉱山は、約100万年前に形成された地質学的には非常に新しい鉱床です。プレート運動による地殻の割目からマグマが上昇する過程において、地表へ地下水やマグマ熱水が供給され、ここで様々な溶存物質が冷え固まったため「浅熱水性鉱脈型金銀鉱床」と呼ばれます。金の含有率は世界平均の約10倍、65℃の温泉水を伴うことなども特長です。環境保全や地域との共存共栄なども含めて、学ぶべきことの多い視察となりました。

鉱山に入り,地下深部の坑道内で鉱脈や抜湯室を視察するメンバー

沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网に寄贈された金鉱石
(海洋コア総合研究センターエントランスに展示)

高知学術出版賞の受賞[2016]

 沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网での10年以上にわたる研究成果をまとめた「海底マンガン鉱床の地球科学」(臼井朗ほか、東京大学出版会)が、高知市文化振興事業団から「平成27年度のもっとも優れた学術出版」として表彰されました。本書は、筆者ら自身の現場調査や研究成果にもとづいて3年以上かけて完成したもので、近年話題となっている海底レアメタル資源の実像を冷静に描き、その地球科学的意義と面白さが強調されています。同事業団の広報誌「文化高知」や「高知新聞」では、簡潔な文章と科学的ロマンを感じさせる良書と評価されました。


注目されるリチウム同位体を用いた深部流体研究の招待講演の実施[2016]

 2016年5月には地球内部の流体に関する学会のセッション、2016年9月には海洋に関する学会のセッションで招待講演を行ないました。2015年には鉱物資源のセッションでの招待講演をおこなっており、様々な分野において、リチウム同位体指標を用いた深部流体研究が注目されています。

同位体分析前からリチウムを分離精製中のクリーンルームの風景

「海底マンガン鉱床の起源環境」の企画?発表[2016]

 幕張メッセ(千葉市)で開催された地球惑星科学連合大会において,「海底マンガン鉱床の起源環境」セッションのコンビナー筆頭者として1件,共著者として5件発表しました(11件中)。


I-1海洋鉱物?エネルギー資源の基礎研究
深海底に眠る鉱物資源?エネルギー資源の成因や実態解明にせまる![2016]

 我が国は、海洋に関して世界第6位の排他的経済水域を有します。海洋の持つ資源は膨大で大きな魅力がありますが、その広大さとアクセスの困難さ、複雑さゆえ、海洋に関する科学的知見が未だに不足しており、今なお人類に残されたフロンティアであるといわれています。平成25年には、海洋基本法に基づく「海洋基本計画」が改訂され、海洋技術開発に関する5つの研究課題の1つに、「海洋エネルギー?鉱物資源の開発」が挙げられており、これらの研究開発を重点的に推進することが明記されています。このような社会的背景のもと、我が大学では、2016度の農林海洋科学部の発足に合わせ、海の資源に特化した「海洋資源科学科」を設置し、そのコースの一つとして「海底資源環境学コース」を設置しました。本コースでは、海底鉱物資源研究に特化した教育?研究を推進し、国際的に通用する海洋人材の育成に着手しました。

 我々のグループでは、高知県の目の前に広がる黒潮域を含めた太平洋の海底に眠る鉱物資源やエネルギー資源を研究対象としています。これらの資源は、地質学的な長い時間スケールで形成されてきたことはわかっています。海底鉱物資源とは、海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、レアアース泥などがあげられますが、それらの分布や成因や実態解明にむけて、その謎を解き明かします。 加えて、これらの海底鉱物資源の利活用を目指した新材料の開発も行っていきます。さらに、開発?利用に向けて関係機関と連携していきます。また、海底エネルギーとしては、高知県の沖合に広がるメタンハイドレートが注目を浴びています。このような研究開発を進めるに当たって、多分野との連携協力や国際協働を図っていく必要があり、学内の様々な組織とも共同で研究を推進します。

三次元的に示した海山の様子マンガンクラストが被覆する巨大平頂海山

深海底のマンガン団塊密集地域から採取された試料

岩盤を被覆するマンガンクラストの切断面

マンガン団塊断面のX線分析による元素マッピング(左上から時計回りにMg,Mn,Cu,Fe)

I-2海洋生物資源に関する基礎研究

I-2 海洋生物資源に関する基礎研究[2021]

海底泥コアから過去を読み解く

 本プロジェクトでは,海洋という3次元空間に「時間軸」という概念を導入することで海洋資源生物に関する理解を深めることを目的としました。

 私たちは,高知県中央部に位置する浦ノ内湾という小さな入江でこの課題に挑みました。実はこの湾は一部の生物学者たちにはちょっと名の知れた場所です。その理由は,赤潮が頻繁に発生すること。季節の推移とともに何種類もの赤潮プランクトンが次々と現れては消えるこの海域は,多くの赤潮研究者から注目されてきました。

 なかでも1988年の出来事は衝撃的でした。毎年たくさん採れていたアサリが,突如として大量に死んでしまったのです。原因は,ヘテロカプサ?サーキュラリスカーマという新種プランクトンによる赤潮。世界でも全く発見例のなかった凶悪なプランクトンが突如として大発生し,根こそぎ貝を殺す悪夢のような出来事でした。この憎っくきプランクトンはどこからやってきたのか?当時すでに浦ノ内湾に忍び込んでいたのか?すべては謎でした。

 それから四半世紀,我々は少し変わった方法でこの謎を解くことができました。過去の環境情報を手に入れるには,その時代の証拠物件を手に入れることが肝心。我々は,浦ノ内湾の海底にある粘土のような泥を円柱状にくりぬき,深度ごとに分取しました。これらは異なる時代に海底に堆積した生物の残骸を含んでいます。深い層は古い時代に,浅い層は最近堆積したもの。各層の年代を測定するとともに,赤潮の犯人であるヘテロカプサに感染するウイルスの有無を(すっかり有名になった)PCRを使って調べれば,この謎が解けるはず。

 結果は驚くべきものでした。1920年代の試料からこのウイルスが検出されたのです。100年という長い期間,壊れることなく泥の中で存在していたウイルスの頑強さ!またこの結果は,ヘテロカプサが初めて赤潮を起こすよりも70年ほど前に湾内に生息していたことを示しています。長きにわたり静かに潜んでいた名もなきプランクトンが,あるとき一斉に大増殖し,アサリを殺す。それ以降,赤潮プランクトンの新種として名を連ねることになる。微小な生命の頑強さを感じさせるストーリーです。

?過去の環境までさかのぼり,その時代に存在したウイルスを調べる手法

?そのウイルスが関連したと思われる生物学的沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网を推定する手法

 これらは様々な分野に応用可能であると考えられます。海底泥コアは生物の歴史を知るための貴重な古文書なのです。

海底泥コアのイメージ
層ごとに異なる時代の生物の残骸が堆積している

論文紹介[2021]

 海洋深層水飲料(硬度1000)の生体効果を以前に発表しました。本論文は異なる飲料(硬度88)で検証し硬度1000とは異なる生体効果を明らかにし,健康維持増進を目的としたより個人に適したオーダーメイド型利活用の可能性を報告しました。

Hiroaki Takeuchi, Yu Yoshikane, Hirotsugu Takenaka, Asako Kimura, Jahirul Md. Islam, Reimi Matsuda, Aoi Okamoto, Yusuke Hashimoto, Rie Yano, Koichi Yamaguchi, Shouichi Sato, Satoshi Ishizuka. Health Effects of Drinking Water Produced from Deep Sea Water: A Randomized Double-Blind Controlled Trial. Nutrients. 14(3), 581 doi:10.3390/nu14030581(2022)

飲料水(硬度88)飲用によるsIgA値の変化

論文紹介[2021]

 渦鞭毛藻ウイルスの海底堆積物中における多様性を解析しました。具体的には,縮重PCR法により得られたHcRNAVおよびその近縁ウイルスに由来する多様な配列について系統解析および立体構造モデリングを行ないました。

Michiko Takahashi, Kei Wada, Syun-ichi Urayama, Yuichi Masuda, Keizo Nagasaki. Degenerate PCR targeting the major capsid protein gene of HcRNAV and related viruses. Microbes and Environments in press (2022)

渦鞭毛藻ウイルス表面分子の立体構造推定図

論文紹介[2021]

 赤潮藻に感染するウイルス(HcRNAV)を対象に,高知県浦ノ内湾の海底堆積物試料中における時系列分布を解析しました。年代測定と分子系統解析を組み合わせ,百年以上前から現在までのウイルスの分布状況を明らかにしました。

Michiko Takahashi, Kei Wada, Yoshihito Takano, Kyouhei Matsuno, Yuichi Masuda, Kazuno Arai, Masafumi Murayama, Yuji Tomaru, Kouki Tanaka, Keizo Nagasaki. Chronological distribution of dinoflagellate-infecting RNA virus in marine sediment core. Sci. Total Env. 770, 20; doi.org/10.1016/j.scitotenv.2021.145220. (2021)

ウイルスの時系列分布から読み解く生物環境履歴

渦鞭毛藻由来有用化学物質の探索研究[2021]

 4次元統合黒潮圏資源学の創成の支援のもと進めてきた研究実績によって,津田が提案した「アンフィジニウム属渦鞭毛藻の有用二次代謝産物の探索と応用」が,沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网3年度科学研究費補助金基盤研究(B)に採択され,さらなる研究を開始することとなりました。これまで化学構造と立体化学が未解明であったイリオモテオリド-1aについて,計算科学を駆使した再解析を中央大学?不破教授らと開始し,最終的には化学合成による完全構造の解析に導く計画です。また,新たなアンフィジニウム属の海洋性渦鞭毛藻の有用二次代謝産物の探索によって,新規マクロリド化合物?イリオモテオリド-7aを発見し,その化学構造の解析を行なっているところです。本研究では「難解な立体配座」の解析例として取り上げ,想定しうる全立体異性体について,配座探索と密度汎関数法計算を組み合わせた計算科学的手法によって完全構造の解明を目指した研究を進めています。本研究は日本薬学会第142年会(名古屋2022年3月25日~28日)にて発表予定です。

イリオモテオリド-7aの構造

海洋細菌間相互作用の研究[2021]

 多くの微生物は,生物活性を持つ化合物(天然化合物)を生産しています。自然条件下に,これらの化合物は微生物および宿主間の相互作用に役割を果たします。したがって,単純の実験条件では,多数の天然化合物は生産されず,これらの発見が困難になりつつあります。天然化合物生産を誘導する手法がいくつかありまが,最近によく使われている方法は共培養法です。この方法には,同じ環境から単離された微生物を共培養し,彼らの相互作用により天然物生産活性化を解析します。我々は,共培養法を活用し,海綿などの海洋生物由来細菌の天然物生産に注目しています。現在までに様々な細菌の43株を単離し,共培養法を行い,抗菌活性物質生産の調査をしました。現時点には,共培養法の結果から相互作用による生物活性物質の生産誘導が起こった菌株のペアを選択し,詳しい解析を行っています。本研究では,新規天然物の発見だけではなく,細菌間の相互作用の理解にも貢献することが期待されます。本研究の成果は,3つの国内外学会に発表され,1つの国内学会に発表する予定です。

海綿由来細菌の培養プレート

I-2 海洋生物資源に関する基礎研究[2020]

海底堆積物コアが語る新種赤潮プランクトンの履歴
高橋迪子?高野義人?村山雅史?新井和乃?田中幸記?増田雄一(沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网)?和田啓(宮崎大学)?外丸裕司(水研機構)?松野恭平 (JSM) ? 長崎慶三(沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网)

 1988年夏、高知県浦ノ内湾で赤潮が発生し、大量のアサリがへい死しました。検鏡の結果、かつて見たこともない奇妙な遊泳運動をする紡錘形のプランクトンが試水中から発見されました。これが、ヘテロカプサ?サーキュラリスカーマと呼ばれる赤潮原因渦鞭毛藻です。調査の結果、本種は魚類には毒性を示さないが、アサリ、カキ、アコヤガイといった二枚貝類を特異的にへい死させるということが明らかとなりました。

 本種の有害性に鑑み、当初、赤潮対策の一環として本種を宿主とするウイルスの探索が行われました。その結果、本種に感染する小型1本鎖DNAウイルス (HcRNAV)が発見されました。宿主であるヘテロカプサの増殖に伴いHcRNAV密度は増加し、赤潮の衰退後に減少するというサイクルが明らかとなり、両者間の密接な生態学的関係性が示唆されました。しかし依然として、そもそもの謎は残されたままでした。「なぜ突如として浦ノ内湾で本種の赤潮が発生したのか?」

 我々は浦ノ内湾の海底に堆積している泥に注目しました。一般に、内湾域においては年間0.6~1 cmの堆積物が海底に降り積もるといわれています。浦ノ内湾は、湾口が浅く狭い、また大型流入河川もないきわめて閉鎖的で外洋との海水交換の少ない湾であることから降り積もった堆積物は年代順に層を成しており、そこに過去の環境履歴が蓄積されている可能性が高いと考えました。

 まず、海底堆積物コア各層ごとの年代を推定し、並行して各層のHcRNAVの分布状況を調べました。その結果、ヘテロカプサに感染するこのウイルスは、ヘテロカプサ赤潮が初めて起きた1988年よりもはるか以前(少なくとも 1920年代)から同湾内に存在していた可能性が高いと考えられました(図)。また、HcRNAVが増加した時期は、浦ノ内湾での養殖が拡大した時期ならびにヘテロカプサの赤潮が発生した時期とほぼ一致しました。

 すなわちHcRNAVの宿主である赤潮藻ヘテロカプサは、 1900年代はじめから浦ノ内湾に生息しており、養殖の振興に伴う環境変化により徐々にその個体群を拡大していった可能性が高いと思われます。1988年の赤潮のトリガーは不明ですが、その後も浦ノ内湾ではしばしば本種による赤潮が起きていることを考えれば、個体群サイズとしてはいつでも十分に赤潮を引き起こせるだけのポテンシャルを有していたのでしょう。

 本研究の結果から、堆積物中の層ごとの年代測定および標的ウイルスの探索を行うことで、さまざまな過去の生物現象の推定技術となりうることが示されました。この手法は、今後、感染症の発生履歴等を検証する際にも同手法が役立つ可能性が考えられます。

海底堆積物コア各層の推定年代(右)とHcRNAV由来の配列数(棒グラフ)

ヘドロでエビ養殖!~食物連鎖で“厄介者”を“資源”に~[2020]

 東南アジアのエビ養殖は、たいてい過密養殖な上に人工配合飼料(ペレット)を大量に与えて速やかな成長を期待するものです(これを‘‘ ブロイラーエビ’'と呼ぶことにします)。このため近年では養殖池底泥の環境悪化が著しく、疾病の発生による大量斃死が起こるなど、大きな問題となっています。そこで本研究では、エビ養殖池に自然発生する赤虫(ユスリカ幼生)やボウフラ(蚊の幼生)およびGutweed と呼ばれるアオサ類緑藻を代替飼料としてうまく利用し、ペレットの給餌量削減と環境保全を両立させることを目指しました。

 研究の結果、エビは赤虫を速やかに取り込み、極めて速やかに消化されることが明らかになりました。またエビの成長も生残率も、ペレットと全く遜色ないことも分かりました。ボウフラは赤虫よりは悪いものの、無給餌の時よりははるかによく成長すること、またGutweed表面は赤虫の生息場所となり、成長を助けることも分かりました。赤虫やボウフラは養殖池底泥の有機堆積物を餌として利用しています。またGutweedは養殖池の栄養塩を利用して成長しています。このことから、昆虫幼生をエビ養殖の代替餌料として利用する事で、ペレットの給餌量が削減可能であるのみならず、養殖池に長年蓄積された、エビ養殖の残餌や糞による底泥有機物(ヘドロ)や無機栄養塩を、赤虫やボウフラおよびGutweedを経由した食物連鎖を利用して消費し、再びエビのバイオマスに転換(これを‘‘放し飼い地鶏エビ’'と呼ぶことにします)できることが明らかとなりました。

図:エビ養殖の残餌や糞により養殖池に長年堆積している底泥有機物(ヘドロ)を、昆虫幼生や海藻類を経由した食物連鎖を利用し、再びエビのバイオマスに転換する養殖の考え方。

掲載論文:Effects of the monomeric components of poly-hydroxybutyrate-co-hydroxy hexanoate on the growth of Vibrio penaeicida in vitro and on the survival of infected kuruma shrimp (Marsupenaeus japonicus)[2020](深見公雄)

内容紹介:石油系プラスチックの流出による海洋環境汚染が問題となっており、自然界で分解される生物系プラスチック(生分解性ポリマー)の開発が、現在、世界中で行われています。PHBHもその一つです。本研究は、さらに先を見据えた、PHBH の樹脂以外の用途について検討しました。短鎖の脂肪酸や水酸化脂肪酸が制菌性を持つことに着目し、PHBHを構成する 3HBおよび3HHという2種類のβ-hydroxyalkanoateが、クルマエビの疾病原因となるVibrio penaeicidaへの感染予防効果を示すかどうかを検証しました。その結果、3HHがV. penaeicidaの増殖を著しく阻害することを世界で初めて明らかにしました。またPHBHを餌料に5%程度添加してクルマエビを飼育したところ、V. penaeicidaに感染したエビの死滅率が有意に低下しました。これらのことから、餌に含まれたPHBHがエビ腸管内で3HBと3HHに分解され、それがV. penaeicidaを阻害したために、エビの生残率が上昇したものと推察されました。PHBHといえども樹脂として利用する限り廃棄物を生み出すが、 本研究結果は、‘"破棄物"を"生物資源"’へ転換するという意味で、4次元資源学の趣旨に合致するものと考えられます。

 

渦鞭毛藻由来、最強抗腫瘍性物質の構造を解明[2020]

 アンフィジニウ凶属の海洋性渦鞭毛藻からこれまでに、多くの培養がん細胞に対して細胞毒性を示す二次代謝産物が発見されており、その特徴的な化学構造と強い活性から、国内外の有機合成化学者や薬理学研究者らの注目を集めてきました。その中でアンフィジノリドN(またはカリベノリド—I)は、nMを下回る低濃度で50%細胞増殖阻害 (lC50)を示す、アンフィジニウム属渦鞭毛藻由来の二次代謝産物では最強の細胞毒性物質です。これまで構造解析や合成研究をなどによる構造解析研究が行われてきたが、その化学構造は明らかにされていません。我々は、アンフィジノリドNの塩素付加体と類似した関連新規化合物(イソカリベノリド—l)と単離し、定量的な空間距離解析を駆使してそれらの化学構造を推定しました。あわせてこれまで未決定であったアンフィジノ リドNの化学構造も推定できました。本研究は日本薬学会英語誌(Chem. Pharm. Bull)の2021年1月号に掲載されました。

掲載論文:Chronological distribution of dinoflagellate-infecting RNA virus in marine sediment core.[2020]

内容紹介:高知県浦ノ内湾から採取した海底堆積物コアを層ことに切り分け、各年代層に含まれる赤潮プランクトン感染性ウイルスを調べました。その結果、同湾で1988年に初めて赤潮を起こした渦鞭毛藻ヘテロカ プサ?サーキュラリスカーマが、少なくとも1920 年代には存在していたことが明らかとなりました。こうした環境遡及的解析は、過去の生物環境を知るうえできわめて有用な戦略であることが示されました。

渦鞭毛藻
ヘテロカプサ? サーキュラリスカーマ

渦鞭毛藻
ヘテロカプサ? サーキュラリスカーマに 感染するウイルスHcRNAV

掲載論文:Drinking Refined Deep-Sea Water Improves the Gut Ecosystem with Beneficial Effects on Intestinal Health in Humans: A Randomized Double-Blind Controlled Trial.[2020]

内容紹介:産官学民連携プロジェクトとして、海洋深層水の健康への利活用を目的に、調整海洋深層水飲料(硬度 1000)と市販ミネラル天然水飲料の2群で飲用試験(1L/1日、12週間)を実施しました。飲用前後で各種項目を比較解析しました。本臨床試験で得た深層水飲料の生体効果は以下です。1)便秘症の改善効果。2)便中短鎖脂肪酸量の増加、特に酢酸の増加が顕著。腐敗産物とslgAは減少。3)短鎖脂肪酸量が増加した人数(効果割合)は全9種類で深層水飲料群が高値(効果に性差もあり)。4)全3種類の尿中イソフラボン類も深層水飲料群で増加。5)深層水飲料は酢酸と吉草酸に特に影響。以上より、調整海洋深層水飲料は腸内環境の改善効果を有し健康維持増進に有益であると報告しました。

深海底堆積物から微生物の単離研究[2020]

 サリニスポラ属の細菌は、主に浅い熱帯および亜熱帯の海洋生息地から報告され、有用な生理活性物質を生産する微生物です。本研究では、白鳳丸KHl 6-6航海に採取された四国盆地の深海底の堆積物から新奇Salinispora sp. H7-4株の単離に成功しました。さらに、ゲノム解析を行い、この株は様々な生理活性物質の生産に必要な遺伝子を持つことを明らかにしました。この成果は、四国盆地の深海堆積物から初めての報告であり、創薬シード化合物の探索に応用することが期待されます。本研究は、Microbiology Resource Announcements (American Society for Microbiology)に掲載されました。

写真:Salinispora株の個体培養

I-2 海洋生物資源に関する基礎研究[2019]

未利用生物資源からの有用化学資源の探索と開発

 この研究は,未利用生物資源から有用化学物質を発見し,それらを医薬品の開発のシードとして役立てることを目的とした研究を展開するものです。生物資源としては渦鞭毛藻,特にアンフィジニウム(Amphidinium)属渦鞭毛藻が産生する二次代謝産物の探索研究を展開し本プロジェクトの開始時から数種の新代謝産物を見出してきました。

 西表島産のアンフィジニウム属海洋渦鞭毛藻KCA09053株より,2種の培養腫瘍細胞に対して細胞増殖阻害活性を示すマクロリド化合物イリオモテオリド-10aと12aを,同じくKCA09052株より同様の活性を示す新規マクロリド化合物イリオモテオリド-9aと11aを単離し,それらの化学構造を明らかにしてきました。さらに,培養腫瘍細胞に対してより強力な殺細胞活性を示す化合物が発見されており,それらの学術論文の投稿の準備を行っています。

 2018年より新たな医薬探索の生物資源として,日本近海に棲息するイモガイ類を取り上げ,それらの産生するペプチド毒を新たな医薬資源開発を目指す研究に着手しました。高知県柏島と沖ノ島にてイモガイ類の資源調査を実施しました。特に沖ノ島で採取したロウソクガイ(Conus quercinus)の毒腺について分析を進めており,TOFMS分析からは,粗ペプチド画分には分子量500~5,000の領域に50種ほどのペプチドピークが観測されることがわかりました。今後は,イモガイの毒ペプチドを混合物のまま二次構造解析をすすめるとともに,これらのペプチド画分の活性スクリーニングを指標として新たな医薬品リードの探索研究を行って行く予定です。

室戸海洋深層水を使った渦鞭毛藻の50L培養

マクロリド化合物の構造解析に使用する核磁気共鳴装置

ロウソクガイの写真

ロウソクガイの毒腺

殺細胞活性物質の核磁気共鳴スペクトル

高校生2万8千人のライブ沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网で本プロジェクトの成果を紹介[2019]

 全国の高校生に各研究機関での活動を知ってもらうためのビッグ沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网「夢ナビライブ2019 OSAKA( 2019年7月24日インテックス大阪?参加者数2万8千人)」において,『海洋の悪いウイルス?良いウイルス』という演題でライブトークを行いました。その後の個別講演や質問ブースに来てくれた高校生には,本プロジェクトの成果である海のウイルス世界の探索について詳しく紹介することができました。炎天下の会場は高校生たちの熱気で溢れ,大変エキサイティングな一日となりました。動画はこちらからご覧いただけます。

夢ナビライブ会場での発表風景(演者:長﨑慶三教授)

海洋資源の健康への利活用と生体効果の検証[2019]

 海洋深層水ベース飲料水(硬度88)による生体効果を臨床試験にて検証しました。現在はその結果を解析中です。途中経過ですが,便中の主要3有機酸の産生亢進効果や尿中にイソフラボン類の1つエクオールの増加を認めており,今後詳細にまとめたいと考えています。また,室戸海洋深層水から精製した純度100%のにがり添加豆腐に腸内環境改善効果がある可能性を見出し,特許を取得しました(腸内フローラ改善健康食品:特許第6486529号)。ピロリ菌関連研究について日本ヘリコバクター学会において学術賞(基礎)を賜りました。ご協力を頂いた関係諸氏に心より御礼を申し上げます。

第25回日本ヘリコバクター学会での学術賞受賞式

自然発生する昆虫幼生や大型海藻を利用した環境配慮型エビ養殖に関する研究[2019]

タイのエビ養殖池
底泥には多数のユスリカ幼生(赤虫:右上)が自然発生している

I-2 海洋生物資源に関する基礎研究[2018]

課題:海洋深層水資源の健康への 利活用と挑戦

 四国南部に位置する高知県は、陸上資源のみならず、その豊かな「海洋資源」に古くから注目してきました。具体的には、科学技術庁「アクアマリン計画」の一環としての全国でも初となる陸上海洋深層水取水施設の設置(1986年)から、現在に至るまで、県内産業の振興と活性化を目的として、多方面でその利活用への取り組みがなされています。

 本課題では、海洋資源の一つに位置づけられる「海洋深層水」を巡る網羅的かつ多次元的な研究を継続し、その研究成果を着実に集積しつつあります。その一つの代表的事例が、海洋深層水資源の健康への利活用を目的とした生体効果の検証試験です。市民の皆様のご協力のもとに集めたデータの解析結果から、海洋深層水飲料(硬度1000)が、腸内環境の改善を顕著に促す効果を持つという可能性が明らかとなってきました。本試験結果はテレビ?新聞でも取り上げられました。

 これは、すでに報告されている飲用物を介した様々な症状改善効果の機序を説明するうえで、重要な医科学的知見を提示するものと考えられます。また、この発見は、健康寿命の延伸という国民の希望に応えるのみならず、少子高齢化に伴い増加する医療費の抑制にも大いに貢献すると期待されます。

 2000年代以降、国は、「健康増進法」の下に「健康プロジェクト」を掲げ、ヘルスプロモーション(予防?未病の推進)を積極的に推進してきました。その中では、とくに栄養?食生活などの改善が基本的な方針として示されています。本プロジェクトで得られた上述の成果(海洋深層水飲料の飲用効果)は、国家施策とも相まって、国民の健康維持増進や病気の予防に大きく貢献できるものと信じております。今後は、硬度の異なる海洋深層水飲料の生体効果の検証、ならびに高知県発の海洋深層水ベース製品の機能性のさらなる解明に努め、海洋資源から、個人のニーズに適した安心?安全で信頼できる商品を創出することに挑戦したいと考えています。本課題から国民の健康に資することのできる具体的な成果を発出すべく、引き続き課題の進捗を図っていく所存です。

室戸調整海洋深層水飲料の生体効果を検証(臨床試験)[2018]

 約3年間の臨床試験を経て調整海洋深層水飲料(硬度1000)の飲用による生体効果を検証しました。その結果、腸内環境を改善する効果があることが明らかとなりました。種々ある評価項目の解析結果を俯瞰し総合的に判断しますと、便秘症の改善、腸内で代謝産生される短鎖脂肪酸量およびイソフラボン類量の増加が注目されます。それら腸内環境の変化(改善)は生体の健康維持?増進に重要で健康寿命の延伸にも期待が持てます。解析結果の詳細は以下の拙論等をご参照下さい。一部は高知県庁ホームページで一般公開しています(https://www.atpress.ne.jp/news/print/window/popup/pr_id/128733/)。また、本研究成果は16th Euro-Global summit on foods and beverages (Amsterdam Netherlands)でBest poster awardを受賞しました。現在は、硬度の低い調整海洋深層水飲料による飲用効果の検証を実施しています。

参考文献:
(1)竹内啓晃、松村敬久 調製海洋深層水飲用による生体効果
  海洋深層水研究17:17-22. 2016
(2)竹内啓晃、大星航、清宮正徳、大澤進
  産官学民連携で進める海洋深層水飲料と健康増進
  臨床化学 47:371-377. 2018 


赤潮原因藻に感染する巨大ウイルスの姿をあばく[2018]

 沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网と水産研究?教育機構の共同チームは、貝類を特異的に殺す赤潮原因藻ヘテロカプサ?サーキュラリスカーマに感染する大型ウイルスHcDNAVの三次元像を観察することに成功しました。ウイルスに感染した宿主の細胞内では、各頂点にボンテン状の構造体を持つ生二十面体ウイルス粒子が大量に殖えている様子が観察されました。こうしたウイルスの立体像観察は世界的にもきわめて珍しいものです。この結果は、有害赤潮の挙動に対してウイルス感染が与える影響を示す証拠の一つとして、国際科学誌 "Viruses"(MDPI社)に掲載されました。本研究の一部は、科研費新学術領域研究「ネオウイルス学-生命源流から超個体、そしてエコ?スフィアーへ(16H06429, 16K21723, 16H06437)」、農林省農林水産技術会議委託プロジェクト「有害プランクトンに対応した迅速診断技術の開発」、ならびに当該プロジェクトの助成を受けて行われました。

有害赤潮藻ヘテロカプサ?サーキュラリスカーマ(A)に感染する巨大ウイルスHcDNAV(B, C)の細胞内での増殖の様子(D, E)

国際微生物生態学大会シンポジウムのRoundtableセッションの主催[2018]

 2018年8月13日に、ドイツ(ライプチヒ)で17th International Symposium on Microbial Ecology(ISME)のRoundtableセッションが開催されました。この大会は、微生物生態学の分野における第一大会であり、今回のシンポジウムに約2200人が参加しました。我々が主催した「Microbial chemical ecology:intra-and interspecies communication」のセッションにおいて、微生物間化学コミュニケーションおよび天然化合物の自然上の役割などについて、約200人の参加者と討論しました。

ISMEシンポジウムの歴史

Congress Center Leipzig開催地

I-2 海洋生物資源に関する基礎研究
4次元目のパラメータ攻略に挑む - 時間軸を遡る環境ウイルス学への挑戦 -[2017]

本プロジェクトでは、定点?定線(1次元)から海域面(2次元)へ、そして水深を考慮した海洋空間調査へ(3次元)。さらに、時間軸という視点から、過去-現在-未来(4次元)にかけての黒潮園の姿を解明することを目指しています。黒潮洗う高知県南岸に位置する「浦ノ内湾」は、複数種の赤潮原因種が年間を通して遷移する「赤潮研究のメッカ」として知られたフィールドです。ここで採取した底泥ロングコアを3cm毎に分画し、各層から得られたRNA中に、同湾で1988年に初めて赤潮を形成した渦鞭毛藻(ヘテロカプサ?サーキュラリスカーマ)を攻撃するウイルスが 存在するかどうかを調べました。その結果、本種赤潮の初発生よりも数十年前から、この湾において両者が細々と繁茂していた可能性が明らかとなりました。この観測結果は、海底泥コアに刻まれた生物環境履歴を、各層の分子解析により辿ることが可能であることを示すものです。少なくとも、微生物分野については、4次元目のパラメータ(時間軸)を過去に向けて遡ることができそうな感触が得られつつあります。

図1:貝類を特異的に殺す性質を持つ有害赤潮原因渦鞭毛藻ヘテロカプサ?サキュラリスカーマ(左:直径18-30μm)と同種に感染するRNAウイルス(右)。1988年の浦ノ内湾での赤潮発生時に、世界で初めて本種が発見?同定された。当時は「新型赤潮」とも呼ばれ、一時的な現象であろうと予想する声もあったが、その後、アサリ?カキ などのタネ貝の陸路輸送により、日本全国の貝類養殖場に飛び火的に拡散し、爆発的に分布域を拡げた。

写真左:走査型電子顕微鏡像(撮影者:高野義人)
写真右:透過電子顕微鏡像(撮影者:長崎慶三)

図2:浦ノ内湾で57cmの海底泥コアを採取 ?凍結後、3cm毎に切り分けて得た各 層(①~④)から RNA抽出およびウイルス特異的逆転写PCR次世代シーケンス(⑤、⑥)を行った。(サンプリング協力:田中幸紀氏年代測定協力:新井和乃氏、村山雅史氏、RT-PCR協力:和田啓氏)。赤潮初発生より30年も前の1950年代層から同じウイルスRNA配列が検出された点が大いに注目された。

室戸調整海洋深層水引用による生体効果(腸内環境改善効果)の検証産官学民連携プロジェクト[2017]

 これまでに調整海洋深層水飲料水(硬度1000)の飲用による様々な生体効果を報告してきました。そこで、その生体効果の医科学的根拠?作用機序を解明する目的で腸内環境に着目し、産官学民連携 プロジェクトとして室戸市民協力のもと臨床試験を実施しました。試験は1L/1日を12週間飲用し、その前後で各種項目(アンケート、便、尿による解析)を並列2群間(天然水群50名:ミネラルウォーター飲用と対象群50名:調整海洋深層水飲料水(硬度1000)飲用)で比較し評価しました。アンケート結果は対象群で有意に高い便秘症改善効果が認められました。便の解析では、短鎖脂肪酸が量?人数ともに対象群で有意に増加し、総量では天然水群と23%もの差を認めました。さらに、尿中イソフラボン類(ゲニステイン、ダイゼイン、エクオール)も全て対象群で高く、各々天然水群よりも10 倍、14倍、 2.3倍も産生量が増加していました。すなわち、調整海洋深層水飲料水は腸内環境を改善し生体に有用な成分を産生充進することで様々な有益な生体効果を発揮していると考えられました。

研究成果が国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載されました。[2017]

 海洋生物資源研究グループの津田正史教授と中央大学不破春彦教授の共同研究の成果が、国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」(IF 11.994)の電子版(2018年2月28日)に掲載されました。

 海洋性渦鞭毛藻より単離された抗腫瘍性マクロリド?イリオモテオリド-2aの全合成と完全構造の解明に関する研究成果で、海洋由来の有用物質の探索?開発研究に繋がるものと期待されます。

農林水産技術会議委託プロ研「有害プランクトンに対応した迅速診断技術の開発」[2017]

有害赤潮の発生予察、終息予察、ならびに漁場適性評価技術の開発などを目標とした多機関連携型のプロジェクト研究です。 沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网は、本研究に個別課題リーダーとして参画し、多くの成果を挙げつつあります。

新魚種養殖場の場所を選ぶ際に、微生物学的視点から漁場を評価し、その選択に合理的な根拠を与えるための 技術開発を進めています。

新学術領域研究「ネオウイルス学」:快調に進捗中![2017]

海洋中のウイルスの役割を解明すべく、昨年度より始まった本事業では、様々な赤潮に共存する、これまで知られていなかった新種ウイルス が次々と見つかってきています。本領域には、沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の他に、東大?京大?阪大?北大?岡大?佐賀大?電通大?水産機構など多種多様なチームが参画しており、分野の壁を越えたメンバー間で熱いディスカッションが展開されています。

ネオウイルス学領域内水圏ウイルス班のロゴ

浦ノ内湾で赤潮を起こした 有害藻リングロディニウム

次世代シーケンサーと 共存ウイルス遺伝情報

日本 - チェコ間の合同ワークショップを主催[2016]

革新的な天然物探索技術を確立する日本とチェコ共和国の共同研究体制の構築を目的として「有用天然物の効率的探索に向けた革新的技術ワークショップ」を2016年11月にチェコ共和国プラハで開催しました。

ワークショップ参加者の集合写真

海洋深層水利用学会賞受賞[2016]

 海洋深層水利用学会において,「脱塩海洋深層水の飲料水利用とその健康維持増進作用の評価および医学応用」の題目で受賞しました。


「ウイルスの存在意義を論じてみませんか?」発表[2016]

 横須賀市文化会館で開催された第68回日本生物工学会大会で開催されたシンポジウム「微生物の潜在能力に注目した有用二次代謝産物の『ものづくり』戦略」において「Application of advanced NMR techniques for analysis of actinobacterial metabolism」を発表しました。


「微生物の潜在能力に注目した有用二次代謝産物の『ものづくり』戦略」発表[2016]

 ANAクラウンプラザホテル富山で開催された日本微生物生態学会第32回大会において,「ウイルスの存在意義を論じてみませんか?」と題したシンポジウムのオーガナイザーを務めました。


高知県須崎市浦ノ内湾赤潮調査[2016]

 高知県水産試験場が実施した高知県須崎市浦ノ内湾の赤潮調査に同行しました。


新学術領域研究「ネオウイルス学(平成28年~平成32年)」がスタート![2016]

異分野の専門家を総動員し、様々な生態系におけるウイルスの役割を解明しようとする画期的な課題です。沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网は、主に海の中のウイルスにフォーカスを当て、彼らの存在意義の解明を目指します。

我々がに知っているウイルスは実はウイルス全体からみれば氷山の一角に過ぎない。地球上には無数の種類が存在しており、人類の科学が及んでいるのは、一部に過ぎない。

ネオウイルス学領域の中で水圏ウイルス研究を共に進める京都大学?JAMSTEC等のメンバーと、桂浜にて健闘を誓う。

I-2 海洋生物資源に関する基礎研究
黒潮圏における生物資源研究の最先端がここにある![2016]

 黒潮圏には、外洋?深海?内湾?珊瑚礁など様々な海洋生態系が存在し、それぞれの環境が多様な生物群集の棲息場になっています。我々のグループでは、主に微生物学的な視点から、同環境に存在する生物資源にフォーカスを当てた研究を展開しています。微生物は、水中だけではなく、海底堆積物中にも存在します。それぞれの生態系の中で予想もしなかった役割を担っていたり、新規な有用化合物を生産する能力を示したり、微生物たちの一挙手一投足は熱い興味をかき立ててくれます。

 また、海洋深層水の健康?医療への効果については沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网?高知県ともに大いに注目しているところです。室戸海洋深層水飲料飲用による様々な生体効果に関する臨床試験データは、新産業創出のためにも大きな意味を持つと考えられます。

 興味は研究を生み、研究は成果を生み出し、成果はまた新たな研究へのモチベーションへと繋がる。その中から、人類の生活や健康に寄与する要素が見つかってくれば、新たな産官学の共同に繋がるものと期待されます。幾つかの研究事例を以下に紹介いたします。

1) 海底堆積物より分離された放線菌について遺伝子解析による種同定を実施中。今後、放線菌の二次代謝産物の解明およびその生合成遺伝子の探索を実施予定。有用物質発見の期待。
2) 渦鞭毛藻の一種が培養腫瘍細胞に対して殺細胞活性を持つ新規有用物質を産生することを発見。複数の新規物質について分子構造解析を実施中。一部は解析を完了。
3) 内湾底泥コアを層毎に分取し、それぞれのウイルス相を調べるためのプラットフォーム構築を完了。過去の時代毎の藻類感染性ウイルスの出現様態および生物環境の推定を目指す。
4) 海洋深層水飲料飲用による腸内環境改善の可能性を100名のボランティアを対象とした産官学民連携での臨床試験により抽出。さらに詳細な解析を継続中。実用化の期待。

海水試料の採取

微細藻類の光学顕微鏡観察

赤潮感染性ウイルスの増殖過程

I-3黒潮の時空間変遷史の研究

I-3 黒潮の時空間変遷史の研究[2021]

四国沖で「ちきゅう」第913次航海

 地球深部探査船「ちきゅう」による表層科学掘削プログラム(SCORE)による第913次航海(首席研究員:池原実)が2021年8月に実施されました。この航海では,四国沖黒潮域のC9037地点(図1)において3孔の掘削を行い,それぞれ約100mの地層を総計約300m分回収することに成功しました。ほぼ同一地点3孔の地層をつなぎ合わせることで,掘削パイプのつなぎ目での欠損のない仮想的な連続地層を構成することができます。船上での微化石分析によると,回収した地層の最下部の年代はおよそ25万年前から29万年前の間になると推測されています。航海の概要については,沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网,海洋研究開発機構,日本地球掘削コンソーシアムから共同プレスリリース(2021年10月11日)が行われましたので,そちらもご覧ください(ここをクリック)。

4次元黒潮圏資源学とレガシーコア

 「4次元資源学」とは「時間スケールを加え探査することで,地球上における資源物質の物質循環システムとその時間発展系を理解し,システムを崩壊させない範囲を見極め持続可能な資源開発を目指す体系」と定義できないでしょうか。

 高知コアセンター(KCC)には,インド洋~西太平洋のレガシーコアに加え,国内の海洋調査船で採取されたコア試料や陸上掘削試料が保管されています。半世紀以上前に採取された試料でさえ,再解析(Matsui et al,2019;沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网レターvol.4参照)により,黒潮圏成立?進化過程を議論できるようになります。「総合的海洋管理」実現にむけ,コアは海洋地球史の古文書,コア庫は宝物殿です。

 海底鉱物?エネルギー資源など未利用資源を育んできた海洋は,異なる時間スケールでは異なるメカニズムがはたらいていることが分かってきており,環境インパクトに対する生物の応答性解明への取組はまだ始まったばかりです。黒潮?黒潮圏の海洋環境には,赤道~両極域の動態も深くかかわっており,鍵となる時間断面での全球的な環境動態解明?モニタリングが必要不可欠となりますので,これからもその努力を継続して行きたいと思います。

森林総合研究所四国支所のオンライン公開講演会(YouTube)で研究成果の紹介[2021]

 時空変遷史グループの岩井雅夫教授および長谷川精講師は,2021年12月にYouTube配信された森林総合研究所四国支所のオンライン公開講演「四国の森のつくりかた」にて,研究成果の発表を行いました。この公開講演会では四国の森林をかたち作る土台となっている地形や地質,土壌,水,植物に焦点を当てた5件の講演がなされ,岩井教授は「四国の地質と環境変遷史:四国の地形?地質とジオパーク」という題目で四国の地形や地質がどのように形成されたかの概説と,四国内のジオパークの紹介やその活動についての講演を行いました。長谷川講師は「四国の地質と環境変遷史:東アジア地域の環境?植生変遷史」という題目で,4次元統合黒潮圏資源学の創成プロジェクトを通して進めてきた東アジア地域の環境と植生変遷の歴史についての成果を紹介しました。

 本文

YouTube配信された公開講演会での発表の様子(岩井教授)

YouTube配信された公開講演会での発表の様子(長谷川講師)

オンライン公開講演会のチラシ

マンガンクラストの縞状構造の成因に関する研究で学生が最優秀講演賞を受賞[2021]

 時空変遷史グループの長谷川精講師と海底鉱物資源グループの臼井朗特別教授が指導する理工学部地球環境防災学科4年の高馬菜々子さんが,日本地質学会四国支部講演会において卒業研究の発表を行い,最優秀講演賞を受賞しました。受賞対象の講演(口頭発表)は「マンガンクラストの縞状構造は氷期-間氷期サイクルに起因するのか?」です。高馬さんの卒業研究では,北西太平洋の正徳海山から採取されたマンガンクラストに保存される縞状構造(厚さ0.5mm程の構造)の成因を調べるため,海洋コア総合研究センター設置のマイクロフォーカスX線CTスキャナと電子プルーブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて微小領域構造解析と微小領域元素組成分析を行いました。その結果,マンガンクラストの縞状構造は,約10万年毎に繰り返した氷期-間氷期サイクルという地球環境変動の歴史を克明に記録することが明らかになりました。

沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网理工学部地球環境防災学科の高馬菜々子さん
最優秀講演賞の賞状とマンガンノジュールと共に

黒潮とその沿岸域での物理現象の調査[2021]

 近年室戸岬付近で発生するようになった急潮(沿岸域で突然発生する速い流れ)のメカニズムを解明するため,高知県水産試験場が設置した流速計のデータを解析し,黒潮の変動や室戸岬の東西の水位差の変動が関係していることがわかりました。そこで,室戸岬のすぐ東の高岡漁港に2017年8月に潮位計を設置して観測を開始しました。潮位計は2018年8月の台風で流失しましたが,2019年8月に波浪の影響を抑えるように改良して再設置し,観測を継続しています。

 同一基準での日本全国の沿岸水位を初めて高精度で決定しました。沿岸の水位差は,海流が岬にぶつかるように流れる箇所でのみ生じていることを示し,黒潮の大蛇行時と非大蛇行時の沿岸水位の相違を記述しました。

 黒潮の大蛇行には,伊豆?小笠原海嶺の西側で蛇行するものと,海嶺上で蛇行する2種類がありますが,その2種類の大蛇行の力学的性質の違いを示しました。

高岡漁港に設置した改良型潮位計

円石藻の分子情報と化石記録から,種の多様化の過程を探る[2021]

円石藻は海洋の主要な第一次生産者の一つで,光合成と鱗片の石灰化を通じて地球の炭素循環に貢献しています。特に過去5000万年以上に渡って繁栄するノエラエラブダセアエ科の円石藻は,海洋環境と生物進化の議論の上で重要な生物群です。円石藻の石灰質鱗片は,海底に化石として保存されるため,その進化史は,現生種の分子(遺伝子)情報と化石記録の両方から調べることが出来ます。

 土佐湾の海水中から分離したReticulofenestra sessilis(ノエラエラブダセアエ科)の培養株を,分子情報と化石記録に基づいた進化史と地球環境変動の関連を探る研究に用いました。

 その結果,ノエラエラブダセアエ科の多様化(種分化)が,氷期―間氷期サイクルのうち,氷期のタイミングで生じていたことが分かりました。この成果は,Current biologyに掲載されました。

土佐湾の回収から採取したGephyrocapsa oceanicaの培養株の電子顕微鏡

人工微粒子がもたらす海洋生物への影響[2021]

 「マイクロプラスチック」と呼称される人間の社会活動由来の人工微粒子は,海洋などの自然環境を汚染し,生物への毒性や生態系への悪影響をもたらすと懸念されています。身近な話題としては,近年,日焼け止めの有機化合物(オキシベンゾンなど)がサンゴなどの海洋生物に悪影響をもたらすとされ,海洋観光を経済中枢に据える国?地域で使用を禁止しています。その人工微粒子のひとつである酸化チタン(TiO2)は有害性が低いため,オキシベンゾンなどの代替物質として使用されています。しかし,土壌性無脊椎生物や淡水性微細藻類はTiO2微粒子に暴露することにより,毒性を呈することも示唆されています。それでは,海洋性の真核生物にはどのような影響があるのか?本命題を解明するため,海洋に広く生息する単細胞真核生物(原生生物)?有孔虫を用い,人工微粒子を含む海水中での暴露実験を行い,共焦点レーザー顕微鏡による生理的な応答と,トランスクリプトーム解析による遺伝子発現の両側面から人工微粒子の毒性を評価しました。本研究は,日本?イタリア国際共同研究です。

 現在海洋で実測されているTiO2濃度より約1000倍高濃度の環境下で有孔虫を培養したところ,有孔虫は人工微粒子を細胞内に取り込み,その後,活性酸素や中性脂肪を大量に産生することが分かりました(Ciacci et al., 2019)。これは有孔虫が人工微粒子を取り込むことによって明らかにストレス応答していることを示唆しています。そこで,同じ環境下で暴露1時間,6時間,24時間後の経時変化について,有孔虫生体内でのストレス応答の動態や代謝メカニズムを追求しました(Ishitani et al., 投稿準備中)。その結果,暴露の初期にはエンドサイトーシスによってTiO2微粒子を細胞内に取り込み,活性酸素を大量に産生するが,経時とともに減少していくことが分かりました。活性酸素の産生は,中性脂肪によって和らげられ,また,こうした脂質は細胞内のTiO2微粒子を包み込み、エクソサイトーシスによって細胞外へ排出されることがわかった。実際、有孔虫はTiO2微粒子を包み込み,エクソサイトーシスによって細胞外へ排出されることも分かりました。実際,有孔虫はTiO2微粒子を含む環境下でも生存し,細胞の外へ高粘性の物質を出すことが観察されています。この粘性物質をSEM-EDSで解析した結果,TiO2微粒子が含まれていることも分かりました。このように,有孔虫が人工微粒子をどのように取り込み,排出していくか,その経路が世界で初めて実証されました。人工微粒子を排出する過程は,汚染環境下で生物が生存するうえでも重要であり,多細胞生物では細胞外物質をメラニン化細胞に包有する過程があるため,人工微粒子の体内摂取はむしろ細胞のメラニン化を助長し,日焼け止めの逆効果になる可能性があります。今後,他種の人工微粒子に関する生物応答の研究が必要にも取り組んでいきます。

Ciacci, C., Margot V. Grimmelpont, M.V., Corsi, I., Elisa Bergami, E., Curzi, D., Burini, D., Vincent M. P. Bouchet, V.M.P., Ambrogini, P., Gobbi, P., Ujiié, Y., Ishitani, Y., Coccioni, R., Joan M. Bernhard, J.M. & Frontalini, F. (2019)

Nanoparticle-biological interactions in a marine benthic foraminifer. Scientific Reports, https://doi.org/10.1038/s41598-019-56037-2.

宝石サンゴの地球科学的研究[2021]

 高知県は日本で初めて宝石サンゴ漁発祥の地であると共に,世界的に高品質の宝石サンゴが産する漁場を有する,国内における宝石サンゴ産業の一大拠点です。宝石サンゴは,沖縄?奄美列島?高知?長崎?和歌山?小笠原などといった黒潮流域の水深80m以深という比較的深い海底で生息していることが知られており,浅海に分布する造礁サンゴとは,分類群?生理生態共に異なるグループに属します。宝石サンゴの成長速度は,造礁サンゴの約100分の1であるため,適切な資源管理が必要とされるものの,そのベースとなる生態や分布などといった情報が乏しく,科学的根拠に基づく資源管理は未だ実現していません。我々は,NPO法人宝石珊瑚保護育成協議会と日本珊瑚商工共同組合の協力の下,日本近海の宝石珊瑚に関する地球科学的研究を進めてきました。

 宝石サンゴは,生きたまま漁獲される「生木」と,死後の骨格が残って化石状態で漁獲される「枯木」に大きく二分され,そのうち枯木は取引量の約8割を占め,宝石サンゴは化石資源としての側面を強く持つものであることから,堆積学や地球化学的アプローチによって資源評価を行う必要があるものと言えます。そこで,高知県足摺沖の漁場から採取された枯木宝石サンゴ54試料を対象として,放射性炭素年代測定を行ったところ,一番古いものは紀元前約5600年前に死亡したものであることが分かりました。また,測定した枯木の85%は,漁業活動が始まった明治初期(1871年)よりも古い時代に死亡していることが分かり,多くの枯木は漁業活動による人為的破壊で死滅したのではなく,寿命や捕食?環境変動といった自然要因で死滅し,海底に蓄積されてきたと解釈されました。今回の結果より,最低でも7600年間もの間,足摺沖漁場で宝石サンゴが生育し,自然死を繰り返しながら化石資源を蓄積してきたと推定されます。今回明らかにした資源の蓄積時間の情報に加え,宝石サンゴの生息密度や寿命,死亡率などといった生態的情報が明らかになれば,漁場における総資源量の推定が可能になり,持続可能な利用に向けた,資源管理の実現に繋がることが期待されます。現在は,高知室戸沖?沖縄?小笠原?和歌山などの他漁場での調査を進めています。

 また,炭酸カルシウムから構成される宝石サンゴ骨格には一年に一層ずつできる成長線(年輪)が発達しており,骨格の微量元素は,水温等の季節変化に伴い年輪に沿って周期的に変化することが知られています。上述の研究で年代を明らかにした,枯木宝石サンゴの微量元素を調べることで,過去7600年間の深さ100~数百mにおける環境変動を復元できることが期待できます。

 今後は,これまでの研究をさらに発展させ,宝石サンゴの資源量評価に向けた科学データの取得を目指すと共に,地域の産業界や行政と連携をして,宝石サンゴ業界におけるSDGs達成へ向けた取り組みを進めていきたいと考えています。

枯木宝石サンゴの試料

宝石サンゴ業界関係者の海洋コア総合研究センター見学の様子

I-3 黒潮の時空間変遷史の研究[2020]

人工微粒子による海洋汚染と生物への影響
海洋コア総合研究センター 氏家由利香

暴露実験時の有孔虫の共焦点レーザー顕微鏑の画像
緑色はストレス物質(活性酵素)を示す。スケールは50 ?m
引用元:Ciacci et al. (2019) Scientific Reports. https://doi.org/10.1038/s41598-019-56037-2(氏家共著)

国際深海科学掘削計画(IODP)Exp.379航海オンライン会議

 国際深海科学掘削計画(IODP)Exp.379(アムンゼン海西南極氷床発達史)の航海後会議(当初2020年9月北欧での開催が予定されていたもの)は、コロナ禍の影響で延期となり、代替え措置としてオンライン会議が2020年6月25日に開催されました。11力国(米、独、英、NZ、仏、印、日ほか)からの乗船研究者29名(時空変遷史グループの岩井雅夫教授を含む)とその学生15名ほかが参加。最大17時間の時差がある中3時間にわたり、航海後研究の進捗状況や予察的結果について闊達な情報?意見交換が行われました。南極縁辺海の掘削では、過去に起きた地球温暖化に伴う氷床崩壊と、海洋循環や生物物質循環へのインパクト理解が進むと期待されていますが、南極は深層水の形成や深層大循環の駆動に重要な役割を果たしており、マンガン鉱床の形成を左右する海中の酸化還元環境にも影響を与えると考えられます。

オンライン会議の様子

各タイムゾーン(計12)における会議開始時間

「間崎の枕状溶岩」高知県の天然記念物に指定[2020]

 高知県西部の四万十川河口近傍に露出する「間崎の枕状溶岩」(四万十市天然記念物)は、白色粗粒な斜長石斑晶(比重2.62-2.76)が濃集するという特異な岩相を有する玄武岩質枕状溶岩で、近年の道路改良工事により新鮮な巨大露頭を道路脇で簡単に観察できるようになりました。斜長石斑晶と玄武岩質マグマ(比重2.65-2.8)は比重に差がないことから単純な 「マグマ重力分化結晶作用」では説明できず、これまで国内外を通じても報告例が確認されていませんでした。こうした稀少性や有用性が高知県文化財審議会において高く評価され(2021年1月25日)、高知県の天然記念物に指定されました(2月24日)。時間変遷史グループの岩井雅夫教授は審議会委員の一人として現地調査を実施、審議?指定に関わりました。

写真1:「間崎の枕状溶岩」の新露頭

写真2:斜長石斑晶の濃集構造

ジオパークを活用した持続可能地域創成の試み[2020]

 「ジオパーク(大地の公園)」は、地域の地質や自然環境、そこで育まれた風土·文化など地域の資源とそのつながりについて理解し活用することで、持続可能な地域を創成していこうとする地域やその取り組みです。I-1班の村山雅史教授や1-3班の岩井雅夫教授は室戸ユネスコ世界ジオパーク推進協議会顧問として参画、地域の天然物?文化財資産を生かした地域振興や地域人材育成に取り組んできました、岩井教授が運営指導委員会副委員長を努める室戸高校の「地域との協働による高等学校教育改革推進事業グローカル型」では、国内外ジオパークとの交流や課題探究をしてきた高校生がGlocal High School Meetings 2021 (2021年 全国高等学校グローカル探究オンライン発表会)」(主催:文部科学省指定グローカル型地域協働推進校探究成果発表委員会、共催:文部科学省、2021年1月30日オンライン開催)で成果を発表、日本語発表部門で銀賞を、英語発表部門では最上位の金賞?文部科学省初等中等教育局長賞を受賞しました。

グローカル探求発表会の様子

黒潮の円石藻の多様性を探る[2020]

 土佐湾の生物群集は、黒潮の影響を大きく受けています。土佐湾の円石藻の調査では、形態観察に基づいた群集調査に加えて、円石藻の培養実験を行いました。その過程で、Umbilicosphaera anulusという円石藻の培養株の確立に、世界で初めて成功しました。培養株が確立できたことにより、同種の系統学的な位置や分岐の歴史を、分子(遺伝子)情報と化石記録の両方に基づいて検証出来るようになりました。また、黒潮の円石藻の多様性への理解が進みました。

写真:Umbilicosphaera anulusの培養株

浅海底生有孔虫の酸素同位体平衡を検証[2020]

 土佐湾の表層堆積物から抽出した現生(ローズベンガル染色)の底生有孔虫Hanzawaia nipponicaの酸素同位体比、および、海水の水温、塩分、酸素同位体比等の分析データを再解析した結果、H. nipponicaの炭酸塩殻には周囲の海水から同位体平衡で酸素同位体比が記録されていることが明らかになりました。また、H. nipponicaの酸素同位体比と水温の関係は、浮滞性有孔虫の飼育実験から求められた関係式(Bemis et al., 1998)と一致することもわかりました。H. nipponicaは、黒潮や対馬暖流の影響が強い西南日本から東シナ海の大陸棚から大陸斜面上部に生息しており、鮮新世の浅海性堆積物からの化石の報告例も多い。今後、唐浜層群穴内層のボーリングコア等から産出するH.nipponicaの酸素同位体比データを用いた黒潮変動を復元する研究等への応用展開が期待されます。

写真:土佐湾から産出した底生有孔虫Hanzawaia nipponicaの電子顕微鏡写真
(スケール:100?m)

掲載論文:Radiocarbon dating of precious corals off the southwest coast of Kochi prefecture, southwest Japan. Radiocarbon, DOI:10.1017 /RDC.2020.114(奥村知世)[2020]

内容紹介:宝石サンゴの年代測定に関する論文発表

 海洋コア総合研究センターの奥村知世特任助教と徳山英ーセンター長を含む研究グループは、高知県足摺岬沖から採集された化石宝石サンゴの生息年代を放射性炭素年代測定によって調べた研究成果をRadiocarbonに発表しました。この研究では、日本でもトップクラスの宝石サンゴの漁獲高を誇る足摺岬沖の漁場から採集された化石宝石サンゴ全54試料を調べた結果、もっとも古い試料では紀元前約5600年前に生息していたことがわかり、また、試料全体の85%は高知県で宝石サンゴの漁業活動が開始されたとされる1871年より古い時代に生息していたことが明らかになりました。この結果より、化石宝石サンゴの大半は漁業活動によって破壊されて死滅したものではなく、寿命や捕食、環境変動などといった自然要因で死滅し、海底に蓄積されてきたものであると推察されま す。本研究は、宝石サンゴを化石資源として適切に漁獲管理をする必要性を提起するとともに、高知沖での宝石サンゴの生息史を理解する重要なデータとなると期待できます。

紀元前約600年前に生息していた化石アカサンゴ

竜串海岸ビジターセンター“うみのわ”で企画展および一般向け講演会の開催[2020]

 時空変遷史グループの長谷川精講師は、2020年3月に高知県土佐清水市にオープンした竜串ビジターセンター"うみのわ"で、「竜串海岸にある まんまる石のヒミツ」という題目の企画展(10月30日~11月30日)と一般向け講演?野外講座(11月22日)を実施しました。竜串海岸の地層には茶褐色の丸い石(コンクリーションやノジュールと呼ばれています)が多数見られます。研究室学生(浅井沙紀さん)の卒業研究で、その成因を調べた結果、この丸い石は太古の生物遺骸が関係して形成されたことが明らかになりました。さらに火星の地層にも似た特徴の丸い石が見られることが分かり、その"ヒミツ"について地球科学の面白さも交えながら分かりやすく紹介しました。

一般向け講演会の様子

竜串海岸の地層を前にした集合写真

黒潮の流路と沿岸水位[2020]

 約30年ぶりに改定された日本の土地の標高 「2000年度平均成果」に、地盤変動分の補正を施して、日本の沿岸水位の標高を初めて高い精度で決定しました。このデータセットにより、太平洋沿岸よりも東シナ海?日本海沿岸の水位が高いこと、黒潮が非大蛇行時に接岸する潮岬の東西で水位に段差があることなどが描き出されました。また、黒潮が潮岬から離岸する大蛇行時の沿岸水位の変動が明らかになりました。

図:日本の沿岸水位の標高(寄高?花輪,2020).

I-3 黒潮の時空間変遷史の研究[2019]

レガシーコア

 黒潮圏の持続可能社会構築にむけ,黒潮の短周期変動は沿岸漁業や潮流発電の効率評価に重要であり,地質時代に遡る 長周期変動は,鉱物資源やエネルギー資源の形成メカニズム解明や自然界の物質循環を考慮したリスクマネジメント?持続可能開発計画策定に不可欠な要素です。コアセンターは黒潮圏の深海掘削試料を保管する世界唯一の施設です。しかし,黒潮の実像はわずか数万年前の最終氷期でさえ解明途上にあり,さらに古く遡ろうとすると,試料の選別や年代モデルの再構築が必要不可欠でした。

 そこで,九州?パラオ海嶺で1973年に採取,コアセンターに保管されていたレガシーコアDSDP Site 296(図1)を再解析し,微化石?地球化学層序に基づいて年代モデルを再構築しました(Matsui et al., 2019, Newsletters on Stratigraphy;図2)。その結果,過去2000万年間にわたって黒潮圏の海洋環境を連続して記録している貴重なコア試料であることがわかりました(プレスリリース:https://www.kochi-u.ac.jp/information/2019091800022/)。Site 296の堆積速度は約800?700万年前を境にそれ以前より速くなっています(図3)。

 同時期にSite 296は北西太平洋旋流内を北上し(図1),石灰質な生物源砕屑物の供給量が増加したようですが,その要因の詳細や資源形成へのインパクト等解明はこれからです。 海洋の鉱物?エネルギー資源形成を大きく左右する酸化還元環境や起源物質供給量は,海洋表層の黒潮のみならず,大気循環や海洋深層循環,生物生産やその分解消費も関わっています。

 コアセンター保管コアの年代見直しによるリノベーションを進めるとともに,モンゴルや南極といった遠隔地でも試料を探し求め,地球上における物質循環システムとその時間発展系の理解に努め,持続可能な地域社会構築に貢献したいと考えています。

関連論文:Matsui, H., et al., 2019. Integrated Neogene biochemostratigraphy at DSDP Site 296 on the Kyushu?Palau Ridge in the western North Pacific. :Newsletters on Stratigraphy, DOI:10.1127/nos/2019/0549

図1:掘削地点位置図と,Site 296が過去2000万年間にたどった軌跡(Matsui et al., 2019)。
白丸の間隔は100万年ごと

図2:再構築された年代モデル(Matsui et al., 2019をもとに作成;松井浩紀博士提供)

図3:再構築された年代モデルに基づき算出された堆積速度(cm/千年)の時代変遷(Supplementary figure S2 of Matsui et al., 2019)

白亜紀末期生物大量絶滅時の大規模酸性雨の証拠発見[2019]

 約6600万年前の白亜紀-古第三紀(K-Pg)境界における恐竜を含む生物の大量絶滅は,巨大隕石の衝突が引き金であることは広く受け入れられています。しかし,隕石衝突後に起きた環境の激変(太陽光遮断,温暖化,酸性雨など)のうち,どれが生物に致命的な打撃を与えたのかはこれまで不明でした。大型放射光施設SPring-8の放射光を用いた微量元素マッピングを用い,K-Pg境界層に,銀?銅に富む微粒子が含まれていることを世界で初めて明らかにしました。これらの微粒子の存在は,隕石衝突の直後に大規模な酸性雨が降ったことを意味します。本研究成果は,2020年2月に「Geological Society of America Bulletin」で公開されました。

大型放射光施設SPring-8の放射光を用いてのK-Pg境界試料の微量元素マッピングの様子

モンゴル北部で湖底堆積物のボーリングコア掘削[2019]

 時空変遷史グループの長谷川精講師の研究グループが,2019年3月にモンゴル北部のサンギンダライ湖において,ボーリングコア掘削を行いました。本研究は,過去5万年間の偏西風の蛇行と永久凍土の融解史の復元を目的としており,採取した湖底堆積物コア試料は海洋コア総合研究センターに輸送され,元素組成分析や花粉分析を実施しました。その結果,過去の温暖化沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网を反映したアジア内陸域の気候変動や植生帯の変遷が明らかになりました。

モンゴル北部サンギンダライ湖で2019年3月に行ったボーリングコア掘削調査(マイナス20℃で凍結した湖上で実施)

黒潮の円石藻から地球温暖化を探る[2019]

 産業革命以来,人為的に放出された温室効果ガスによって,地球の平均気温は上昇傾向にあります。それに伴い,海洋の温暖化も1970年代後半から顕著になってきました。そのため,1960~1970年代前半に黒潮の海水から作成された,海水ろ過フィルター試料を用いて,温暖化が顕著になる以前の黒潮の円石藻群集の復元を行っています。得られた結果を,現在の円石藻群集と比較する事によって,過去50年間の温暖化が黒潮の円石藻の植物相にどのような影響を与えたのかを知ることができます。

土佐湾の初冬の微細藻群集

I-3 黒潮の時空間変遷史の研究[2018]

酸素極小帯の形成と変遷

 酸素極小帯(OMZ)は、コバルトに富むマンガンクラストが形成されるなど化学組成に大きな影響をおよぼす(Usui et al., 2017, Ore Geology Reviews)とともに、主成分マンガンの貯留庫としても注目されています(Halbachモデル)。 

 IODP Exp.355航海で掘削が実施されたアラビア海には、東太平洋とならぶ世界最大級のOMZが存在します。国際共同研究により、OMZで繰り広げられる脱窒開始は300万年前頃であり、現在のような状況が成立したのは約100万年前以降であること(Tripathi et al., 2017, Scientific Report)、さらに脱窒は間氷期により活発であり、アラビア海西部では氷期の一部で脱窒/OMZがせん滅していたこと(Kim et al., 2018, Scientific Report)、などがわかってきました。新生代の寒冷化にともなった海洋成層化や酸素極小帯の形成史は、海底鉱物資源形成環境を考える上で注目されます。

 一方黒潮流域直下に位置する土佐ばえ海盆では、系統的コア試料群のXRFコアスキャナー分析結果から、古南海地震で形成されたと考えられるタービダイトの直上で、Mn濃度が上昇傾向にあることがわかりました。巨大地震時に発生した混濁流が酸素極小帯下部に位置する海盆内に酸素を供給したのかもしれません。急潮や黒潮大蛇行など表層海流の変動に加え、地殻変動の影響や生物圏の進化にも着目し、黒潮システムの時空間変遷を調べて行きたいと取り組んでいます。

図1:四国沖南北断面における溶存酸素分布

図2:拓洋第5海山におけるマンガンクラスト化学組成の深度変化
(Usui et al., 2017, Ore Geology Reviews)

図3:窒素同位体分析の結果

図4:氷期-間氷期におけるアラビア海の酸素極小帯盛衰概念図
(Kim et al., 2018, Scientific Reportを一部改変)

研究成果が国際学術誌「Science Advances」に掲載[2018]

 時空変遷史グループの長谷川精講師と名古屋大学グループの共同研究の成果が、国際学術誌「Science Advances」(IF 11.511)電子版(2018年12月6日)に掲載されました。

  地球や火星の風成砂丘の地層中に見られる球状鉄コンクリーション(写真上)の成因に関する研究成果で、火星の表層環境史の謎の解明に繋がりました。

  最近の調査で、土佐清水市竜串海岸に露出する古黒潮が関わって形成された地層にも鉄コンクリーションが見られることがわかり(写真下)、古黒潮が竜串海岸の鉄コンクリーションの形成にどのように関わっていたかの解明を現在進めています。

米国ユタ州の風成層中に見られる鉄コンクリーション

竜串海岸の古黒潮が 形成した地層の鉄コンクリーション

日中大学フェア&フォーラム2018 in CHINA[2018]

 第13回日本大学フェア&フォーラムin CHINA2018(平成30年5月12-15日,中国広東省広州市,主催:科学技術振興機構?中国国家外国専家局)に,本プロジェクト関係者2名が本家副学長に同行参加し,「日本大学フェア」「日本技術展」に出展しました。「日本技術展」では海洋コア総合研究センターの共同利用設備?器機群が紹介されました。大会の様子は,科学技術振興機構(JST)が運営するScience Portal Chinaでも紹介されました(http://www.spc.jst.go.jp/event/univff_reports/ff.html)。

受付の賑わい

日本大学技術展出展会場沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网ブース

【航海報告】調査船「よこすか」航海YK18-05[2018]

 海洋調査船「よこすか」によるYK18-2航海(2018年4月29日JAMSTEC横須賀岸壁出港-5月3日宮崎港入港)が実施され(主席研究員:浅田美穂,次席研究員:岩井雅夫),四国沖?日向灘の南海トラフで海底泥火山ならびに海底変動地形の音響探査が行われた。海底泥火山はメタンハイドレートや巨大地震発生域との関連で注目されている。調査日程わずか3日で,低気圧の影響を受けながらも高精細な海底地形?音響特性が明らかにされた。

「よこすか」船内ラボにおける航海研究打合せ風景

KY18-02航海における音響探査の様子

SeaJapan 2018 学生沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网参加[2018]

 国内最大の国際海事展「Sea Japan 2018」が東京ビックサイトで開催され(http://www.seajapan.ne.jp),一般社団法人日本舶用工業会によって企画(http://www.jsmea.or.jp/jp/news/news_201804/SJP2018houoku.pdf)された学生沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网に,沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网から8名が招待され参加しました。2018年4月12-13日の二日間に,セミナーや展示ブースのツアー,調査船「よこすか」ならびに「しんかい6500」の見学などが行われました。参加した院生?学部生は皆目を輝かせ,他大学から参加した学生やOBとの交流も楽しんでいました。

SeaJapan2018の公式ガイドブック

セミナー会場.海事産業の現状と将来展望に関する講演を聞き入った.

調査船「よこすか」の前で記念撮影

国際共同研究の開始~白鳳丸KH-16-6次航海~[2017]

 国際深海科学掘削計画(IODP)の第355節航海(Exp. 355、2015年3月-5月)の航海後会議が,インド?ゴアにある国立インド南極海洋研究所(NCAOR)で開催され(2017年7月248-278)、乗船研究者の人として本プロジェクト分担者が参加しました。航海後1年2ヶ月の間に進展した成果を持ち寄られ(口頭発表15件、ポスタ ー発表10件)、闊達な議論がなされました。一部発表はインターネットを介したものとなりましたが、スムーズにすすめられました。

 会議後半には、 1)年代モデル、 2) 古海洋研究、 3) 大陸環境変遷、 4) 堆積物起源、 5) 化学風化、 6)モンスーン、の各課題に関係する取り組み状況が整理され、共同研究体制の構築が議論されました。酸素同位体層序は、韓国のB.-K. Kim博士と指導学生が沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网海洋コア総合研究センターで分析?共同研究しているものです。

 本航海で採取された掘削試料は、既に海洋コア総合研究センターに全て運ばれ保管されています。インド洋の大気海洋循環は、黒潮の熱源となる西太平洋暖水塊の形成? 変動史やアジアモンスーンに連動しており,レガシーコアとともに黒潮の時空間変遷史研究に活用されることが期待されています。

航海成果公表済論文;
Tripathi, S., et al., 2017. First evidence of denitrification vis-a-vis monsoon in the Arabian Sea since Late Miocene.
Scientific Reports, 7, 43056; doi: 10.1038/srep43056

アラビアモンスーンを肌で感じる会議参加者

首席研究者D.Pandey博士のオープニング講演

デカン高原巡検風景

第七開洋丸傭船航海~愛知沖南海トラフ地形?地質調査~[2017]

 愛知沖南海トラフ陸側斜面を調査海域とする第七開洋丸傭船航 海が実施され(2017年9月58蒲郡港出港、88高知港入港、首席研究者:杉戸信彦、法政大学)、共同研究者として本プロジェクトI-3 班より1名(岩井)が乗船、地形地質探査を行ないました。「変動地形」、「古地震」を主たる目的とした航海でしたが、採取されたコア試料には、黒潮大蛇行頻発域の沿岸水の様相が記録されていると期待され、年代測定等の分析準備が進められています。

 第七開洋丸は元東京海洋大学海鷹丸を改造した民間海洋調査船(海洋エンジニアリング株式会社所有)で海洋資源探査や海底変動地 形探査などで広く活用されています。Aフレームクレーンとウインチに老朽化由来の不具合が多少ありましたが、作業甲板は広く、甲板と実験室?居室?ウインチ室?操舵室等へのアクセスも良い構造になっています。スリープウェイをもつことから、張力計等小道具を整備したうえでウインチ等が本来の性能を取り戻せば、オペレーション次第で長尺ピストンコアリングも可能と思われました。

早朝からのピストンコアラ―採泥作業~

第七開洋丸
海洋エンジニアリング(株) 保有 (649トン)

室戸岬直近の高岡漁港で水位観測始めました[2017]

 室戸岬を挟んで西側の土佐湾沿岸の水位と、東側の紀伊水道外域沿岸の水位が異なることがあります。土佐湾側の水位が高いときは、黒潮が室戸岬に接近しているようです。

 沿岸域での突発的な強い流れを「急潮」と呼びます。全国各地で起こる急潮は定置網に破網やロープの破断などの被害を及ぼしてきました。定置網が流出するほどの強い急潮は相模湾や日本海の一部など、限られた場所でしか見られませんでしたが、室戸岬近くで2013年、2015年と急潮による定置網の流出が発生しました。その後の高知県水産試験場による流速観測データを解析したところ、室戸岬近 くで急潮が発生する時には紀伊水道外域側の水位が高くなることがわかってきました。

 そこで、室戸岬の東の高岡漁港に水位計を設置し、2017年8月から水位観測を開始しました。これまでは紀伊水道外域側の水位に、小松島や阿波由岐での観測 データを用いてきましたが、高岡漁港での水位観測により、室戸岬の西の室戸岬漁港の水位(気象庁)とあわせて、純度の高い水位差観測が可能となり、黒潮の接近や急潮発生メカニズムの解明に近づけると考えています。

水位計

室戸岬周辺函

第七開洋丸傭船航海~愛知沖南海トラフ地形?地質調査~[2017]

 北西太平洋および東シナ海から採取した海洋コア群と深海掘削コアを活用して、気候変動のキーとなる時代(完新世、最終氷期、最終間氷期、鮮新世温暖期など)における黒潮変動の実態を復元し、北太平洋における気候変動や中深層水循環変遷史との関連を解き明かす研究を国内外 の研究者と連携して進めています。

国際共同研究の開始~白鳳丸KH-16-6次航海~[2016]

 2016年11月に、北西太平洋(黒潮流域、九州-パラオ海嶺および伊豆小笠原海域)において白鳳丸KH-16- 6次航海(主席研究員:池原実)を実施しました。深海底から海洋コアを採取し、約2万年前の最終氷期最寒期以降の気候が大きく変化した時代に、黒潮流路がどのように変化してきたのか、また、黒潮大蛇行がどの時代に卓越していたのかなどを復元し、日本および東アジアの気候変動との関連を解明するための国際共同研究を開始しました。採取した海洋コアは、沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网海洋コア総合研究センタ ーにて冷蔵保管し、X線CTスキャナなどによる非破壊計測を行うとともに、より専門的な古環境変動研究を展開しています。

多層式開閉ネット(VMPS)によるプランクトンの採集。堆積物に化石として残る放散虫や浮遊性有孔虫の水深別の存在量と種構成を明らかにします

自航式深海底サンプル採取システム (NSS: 東京大学大気海洋研究所)を用いた海洋コアの採取

「海洋底科学の基礎」出版[2016]

海底掘削科学に関する最新の技術?科学手法をまとめた「海洋科学の基礎」(日本地質学会「海洋底科学の基礎」編集委員会 編、共立出版)が、2016年9月に出版されました。(9非破壊計測、10個別計測の一部を執筆分担)

統合国際深海掘削計画(IODP)で、地球深部探査船「ちきゅう」とともに運用されているジョイデス?レゾリューション(JOIDES Resolution)号

新聞報道 (朝日新聞)[2016]

 約2億1500万年前(三畳紀後期)の巨大隕石の衝突によって、海洋生物の大規模な絶滅が起きた証拠を示した「Scientific Reports」への掲載について報道されました。


I-3 黒潮の時空間変遷史の研究
黒潮圏の現在?過去?未来をコアから探る![2016]

 過去も未来も万年単位以上で考えることが、今を生きる上で、またこれからの資源を考える上で必要不可欠と、2011年に発生した東日本大震災と原子力発電所の事故を機会に、実感?課題提示されるようになってきました。仙台平野の奥部を含む広い範囲で津波堆積物が発見されていたにも関わらず、原子力の安全対策に生かされず、結果として数万年以上にわたる管理が必要とされる放射性廃棄物を大量に発生させてしまいました。この現実を重く受け止め対峙するためには、数万年~数十万年、場合によっては数百万~数千万年と時間を遡り、持続可能な資源開発?利用?安全管理について考えることが必要不可欠です。

 地球の自然史を数万年以上にさかのぼるには、地層を読み解く必要があります。地層を円柱状にくり抜いたものは“コア”と呼ばれ,地球の歴史を記録した“古文書”のような存在ですが、上手にページをめくれば、過去にどんな出来事が起きたか教えてくれ、未来を生きるヒントを与えてくれると期待されます。 高知コアセンター/沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网海洋コア総合研究センターには、黒潮圏を包括する西太平洋及びインド洋で掘削されたコア試料が全て保管されており、その記録を読み解く努力が繰り広げられています。地域の自然特性?資源 を理解?有効活用し、持続可能な資源開発?地域活性社会創生が、3.11以降の資源学には求められています。黒潮圏をフィールドにしたケ ーススタデイとして、高知の地の利を生かした研究を進めたいと思います。

世界三大コア保管施設の管理対象海域

現在(2016年8月)の海洋循環

中新世 (A:中期、 B:後期)の海洋循環(Li et al., 2006)
?Warm current
?Cold current

II総合的海洋資源管理の体系化

II 総合的海洋管理の体系化[2021]

 海洋立国を目指す日本では,2007年に海洋に関する基本理念を定めた海洋基本法が制定?施行され,その第28条において,海洋に関する政策課題に的確に対応するために必要な知識及び能力を有する人材の育成を図るため,大学等において学際的な教育及び研究が推進されるよう定められました。海洋基本法に基づいて策定された海洋基本計画においては,海洋に関わる事象は相互に密接に関連していることから,海洋立国を支える人材には,多岐にわたる分野につき総合的な視点を有して事象を捉えることのできる幅広い知識や能力を有する者を育成していくことが重要とされています。これを受けて,沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网では,2016年度に農学部を改組して農林海洋科学部とし,新たに「海洋専門人材」を育成する海洋資源科学科(定員65名)を設置しました。海洋資源科学科では,「海を知り,護り,利用する」ために必要な知識や能力を身につけるための学際的なカリキュラムとして,総合的海洋管理(Integrated Coastal and Ocean Management: ICOM)教育プログラムが設定されました。ICOM教育プログラムでは,四国国立5大学(沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网,徳島大学,鳴門教育大学,香川大学,愛媛大学)教員によるオムニバスである「海洋科学概論」,沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网教員による「海洋基礎生態学」,「水産学概論」,「海洋地球科学概論」,「海洋管理政策論」,「合意形成学」の6科目が必修科目であり,海洋学一般科目群,沿岸海洋科目群,水産海洋科目群,社会科学科目群の4科目群16科目から6科目を選択?履修して修了となります。修了生へのアンケートでは,89%の学生が多岐にわたる分野の科目を学んだことに意義を感じていました。

 海洋資源科学科では,海洋に実際に触れる機会として,「洋上観測実習」を2018年度から開講しました。実習では,内湾である浦ノ内湾で沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の船舶,豊旗丸,ねぷちゅーん,はまゆうによる観測を,外洋である土佐湾で2018年3月に竣工したばかりの長崎大学の長崎丸による観測を実施しました。水温?塩分等の基本的な観測のほかに,底泥を採取して硫黄分を計測し,外洋と比較して環境改善の必要な内湾の実態を学びました。

 海洋資源科学科を卒業した学生がさらに専門分野を深く研究する場として,2020年度に沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网大学院総合人間自然科学研究科の農学専攻(修士課程)が農林海洋科学専攻に改組され,海洋資源科学コースが設けられました。海洋資源科学コースでは,「持続可能な水産生物資源の生産と活用」,「海底資源学序論」,「海洋生命科学序論」の3科目が必修科目であり,コースのほとんどの教員から,海洋資源に関係する多岐にわたる分野の最先端の研究の状況を知ることができます。  本プロジェクトの最終年度である2021年度には,海洋に関する幅広い知識を身に付けて専門分野の研究を行った16名が修士論文審査に臨みました。

高知港を出港する長崎丸

小さな挑戦者たち(第14回黒潮圏科学国際シンポジウム)[2021]

 沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网3年11月、第14回黒潮圏科学国際シンポジウムが開催されました。コロナ禍のなか,オンラインの開催となりましたが,学生にとっても自分の成果を発表する有意義な機会となったようです。初めての口頭発表に挑んだ沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の学生たちの感想は、以下のようなものでした。

?貴重な経験だった。当初はポスター形式での参加を考えていたが,後輩二人が口頭で発表するということで,自分も挑戦することに決めた。英語で伝えることの難しさを改めて痛感するとともに,自身の研究成果を見つめ直す良い機会になった。十分に準備と練習をしていたおかげで,落ち着いて発表することができたと思う。英語の実力が伴っておらず,質疑応答は散々だったが,それでも挑戦したことについて先生方からお褒めの言葉をいただいたときは,やはり挑戦して良かったと改めて感じた。いま思えばこの経験は,自分自身を成長させた重要な沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网であったといえる。[舘石尚久(農林海洋科学専攻修士1年生)]

?実はあまり当日の記憶がない。自分の発表の3演題くらい前から不安と緊張で押しつぶされそうになっており,深呼吸しながら発表に臨んだ。自分の発表の直前には「もう焦っても何も変わらないからなるようになれ」と念じて話し始めた。12分間。話し終えてみると,そこそこの出来栄えで,とても安心したことを覚えている。
 練習から本番まで一貫して意識していたことは「強調したい語句?文章」をしっかりと相手に聴かせるということだった。ややゆっくり,大きな声で目立たせるよう努めた。
 口頭発表に挑戦してよかったと思う。質問への対応など改善点は山積みだが,今後も精進していきたい。[廣本春奈(農林海洋科学部4年生)]

?初めて英語でのプレゼン。本番までは苦労の連続だった。それは,自分の単語力?文法力不足を痛感させてくれる過程でもあった。単語の発音やアクセントが分からないということも多々あり,地道に調べながら練習した。幸い本番は,練習を重ねた甲斐があり,思ったよりもずっと上手くできたと思う。ただ,参加者の質問に対してうまく答えられなかったのは猛省すべき点である。今後の重要な課題と考えている。
 今回の経験により,リーディング?リスニング?ライティング?スピーキングの4技能が鍛えられた。また人生初となる英語でのプレゼンを経験したことで精神面でも少しだけ成長したように思う。またこのような機会があれば挑戦していきたい。[船岳祐作(農林海洋科学部4年生)]

大学院設置による海洋人材教育体制の充実[2020]

 今年度新たにスタートした農林海洋科学専攻(修士課程)には、海洋資源科学コースが設けられ、18名の学生が修士(海洋科学)の修得を目指して学びを開始しました。海洋資源科学コースでは、「持続可能な水産生物資源の生産と活用」、「海底資源学序論」、「海洋生命科学序論」の3科目が必修科目となり、海洋資源に様々な角度から取り組む研究の最先端に触れることができます。

 沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の感染拡大防止策の影響で、対面での国際交流による2020年度の人材育成活動はすべて中止となりました。また、2019年度より検討を進め、2020年9月3日、4日にフィリピンビコール大学において、ビコール大学および沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の両学長や理事の招へいにより開催を予定していたフィリピン人修了生による同窓会の設立記念式典も開催が見送られました。しかし、オンラインを通じた同窓会の活動推進の議論(右写真)を皮切りに修了生や本学教員によるセミナーの企画や発表、国際学会での発表などの国際交流活動は活発に行われました。

 また、修士課程の学生の学年進行に合わせた2022年度開始の博士課程について、黒潮圏総合科学専攻内に海洋資源科学コースと総合科学コースを設置することが正式に決定し、カリキュラムの検討などが開始されました。

赤池慎吾コーディネーターと参加者

国立台湾海洋大学の産学民連携による人材育成の取り組み紹介

オンラインによる同窓会打ち合わせ

II 総合的海洋管理の体系化,III 海洋人材育成および地域産業創出[2019]

 「4次元統合黒潮圏資源学の創成」プロジェクトおける第II班の「総合的海洋資源管理の体系化」では,本学農林海洋科学部海洋資源科学科で必修となっている「総合的海洋管理 (ICOM: Integrated Coastal and Ocean Management) 」教育プログラムを中心に,4次元統合黒潮圏資源学プロジェクト等で得られた最先端の研究成果を,学生への講義内容に随時含め,将来的に,このような考え方を持った学生を育成することが目標となっていました。

 一方,第III班では,「海洋人材育成および地域産業創出」がテーマとなっており,大学院の博士課程黒潮圏総合科学専攻において,同じく総合的海洋管理のコンセプトを持った人材育成を,特に東南アジアの留学生を中心に行ってきました。すなわち,Ⅱ班では学部教育(学士課程),Ⅲ班では大学院教育(博士課程)という“すみ分け”でした。しかしながら,2018年度に実施された本プロジェクトの中間成果報告会で,外部委員の先生方から,人材育成という意味では学部から大学院まで一貫して行うべきであり,体系化についてはもう少し工夫すべきであるというご指摘を受けました。

 このため,2019年度にⅡ班とⅢ班のあり方について再検討を行い,人材育成については,留学生だけでなく日本人の学部学生を含めた形で,Ⅲ班で実施し,Ⅱ班はプロジェクト等で得られた最先端の研究成果をもう少し有機的に結合することで総合的海洋管理の体系化の体制構築を検討し,その成果を,学生を含めた一般社会へ啓蒙していく方向に特化することになりました。これは大変重い課題ですが,何とかその目標に向かって進んでいきたいと思います。

 2016年度に入学し,ICOM教育プログラムを修めた海洋資源科学科の第1期生59名が卒業を迎えました(写真1)。また,2014年度から博士課程を受け入れている「国費留学生優先配置プログラム」の第3期生2名が熱帯性魚類や等脚類の生態学的研究により2019年9月に学位を取得しました(写真2)。同12月には,後継プログラム「黒潮圏の持続的地域社会を牽引する「環人共生」リーダー育成プログラム」が文部科学省に採択され,2020~2022年度にかけて毎年3名のフィリピン人留学生を受け入れることになりました。

 黒潮流域の台湾?フィリピンを中心とした若手研究者のネットワーク作りと育成のため,2019年度もJSTのさくらサイエンスプランプログラムにより10名の若手研究者を迎え,本学の海洋コア総合研究センターや海洋生物研究教育施設等の海洋研究施設,森林総合研究所,さらに地域資源の利用を実地で学ぶため養鰻場やかまぼこ工場,ナノファイバー開発に取り組む製紙工場での視察体験プログラムを準備しました。さらに黒潮圏総合科学専攻の学生も加えて「沿岸資源利用と観光」をテーマにセミナーを実施し,国境や専門分野の枠を超えて討論会を行いました。一方,将来的な私費大学院留学生の増加を目指し,フィリピン?パルティド州立大学の学部生2名に対する短期交換留学プログラム(受入)を4週間にわたり実施しました。

 このような国際交流活動を通して,海外の研究者や学生と沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の連携は一層活発になりました。フィリピンでは,修了生有志により2020年度の同窓会の設立が計画され,準備委員会が発足しました。同窓会にはフィリピンと沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网との国際交流の受け皿,さらには日本との懸け橋となることを期待しています。

 また,交流を深めていたフィリピン?カタンドゥアネス州立大学と大学間協定を締結しました。

写真1:海洋資源科学科第1期生の卒論発表会

写真2:「国費留学生優先配置プログラム」の第3期生

写真3:参加者による集合写真

海洋資源科学科第1期生の卒業[2019]

「総合的海洋管理(ICOM:Integrated Coastal and Ocean Management)」教育プログラムを修めた第1期生が2020年3月23日に卒業しました。

ICOM修了証

II 総合的海洋管理の体系化[2018]

「洋上観測実習」で土佐湾洋上にでる  「4次元統合黒潮圏資源学の創成」プロジェクトでは、様々な海洋資源の中でも特に、これまで必ずしも十分には開発?利用されてこなかった海底鉱物資源や海水中および堆積物中の微生物資源等が研究対象の中心となっています。また、持続可能で平和的かつ積極的な海洋(資源)の開発?利用だけでなく、人為的インパクトを最小限に抑えた海洋環境の保全との調和を図りながら維持管理し、将来の資源動態を予測するといったことも大きな目標となっています。

 沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网農林海洋科学部の海洋資源科学科では、「総合的海洋管理 (ICOM: Integrated Coastal and Ocean Management) 」教育プログラムを必修としています。ここでは、水産生物も含めた黒潮圏資源の自然科学的研究成果に社会科学的考察を加え、海洋資源を総合的に知り、利用しながら、それを維持管理する「総合的海洋管理」の視点を体系的に学びます。4次元統合黒潮圏資源学プロジェクト等で得られた最先端の研究成果を、ICOM科目を中心に、学生への講義内容に随時含めることで、現在、世界ではどのようなことが行われているのか、何が明らかになっているのか等について教育を実施しています。また座学以外にも実験?実習科目が数多く配置されており、海洋資源の有効利用と持続的管理の知識?技術と意識を持ち、様々な分野で活躍できる人材を育成しています。このように、体系化された海洋資源に関する教育を実施し、総合的海洋資源管理の視点を持った学生を、我が国だけでなく世界に排出することは、我が国の大きな使命であり、本学もそれに応えられるように努力しているところです。

 海洋資源科学科の3コースのうち新設された海底資源環境学コースと海洋生命科学コースの学生を対象にした「洋上観測実習」が、今年度(平成30年度)初めて、2年生?3年生の合同実習の形で実施されました。本実習は、船で土佐湾中央部の外海へでて、様々な観測を行うとともに、浦ノ内湾でも同様の観測を行い、内湾と外洋の違いを実感するとともに、科学的データの面からもその違いを確認することが主な目的となっています。本学には大型の練習船がないので、長崎大学から、今年の3月末に進水したばかりの最新鋭の練習船「長崎丸(1131トン)」に高知まで来てもらい、実習を行いました。

 2コース?2学年合わせて56名の学生全員が、船で1泊したあと、翌日には土佐湾に出て、真っ青な本来の海の色を体験するとともに、様々な最新鋭の観測機器に触れながら、無事に実習を終えました。

 高知港で上下船した班は、浦戸湾入口にかかる浦戸大橋を下から見上げるという、なかなか味わえない体験もしました。卒業後は、必ずしも船に乗る機会はないかも知れない学生達ですが、たとえ短期間であったとしても、彼らにとっては貴重な体験、経験になったことでしょう。

長崎丸の舷側からゼッキ板を沈めて透明度を測定する学生達

長崎丸甲板で上がってきたCTDから海水試料を採取する学生達

浦戸大橋を下から見上げる。通過する車が小さく見える。

鉱物資源や地震発生に関わる地殻深部流体の研究[2018]

 沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网海底資源環境学コースの1期生が研究室に配属され、卒業研究がスタートしました。黒潮の海は、若くて暖かいフィリピン海プレートが沈み込み、その際に生じるスラブ脱水の、断層などを通じた陸上湧出が示唆されています。これら地殻深部流体は、海洋プレートや地震?火山メカニズムを理解するための重要な役割を担っています。この地球内部物質循環の理解への第一歩として、学生自らフィールドを調査し、採取した湧水試料の同位体?微量元素分析を行っています。このように、黒潮圏の特異な海底環境やその周囲の恵まれた自然環境、そして高知コアセンターの最先端の研究環境を十分に活用することによって、学部生の早い段階から広い視野で地球科学を学んでいます。様々な分野や視点から海洋研究に携わる教員?研究者から日々刺激を受けながら、楽しく有意義な卒業研究を行っています。 (海底資源環境学コース?3年生?村木美波)

卒業研究として中央構造線の湧水を採取している様子

海底鉱物資源の研究航海に乗船[2018]

 海洋コア総合研究センターの臼井朗特任教授、浦本豪一郎特任助教らが参加した国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究船「よこすか」による福島県沖の磐城海山の海底鉱物資源の研究航海に農林海洋科学部海洋資源科学科海底資源環境学コースの1期生が初めて参加しました。航海中は、潜水調査船「しんかい6500」の潜航記録を取る作業や、深海から採取されたマンガンクラストやコア試料の処理など、他大学の教員や研究者と協力して船上作業に従事し、無事に航海を終えました。

採取したマンガンクラストを切断し、断面を写真撮影している様子

II 総合的海洋管理の体系化[2017]

 昨年度、改組により発足した農林海洋科学部の海洋資源科学科では、平成29年度には第1期生約65名が2年生に進級し、いよいよ総合的海洋管理(ICOM: Integrated Coastal and Ocean Management) 教育プログラムを本格的に学び始めました。

 ICOMプログラムでは卒業に必要な専門科目84単位のうち、必修6科目と選択必修6科目の合計12科目24単位を履修することが求められています。全部で22の授業科目で構成されており、2017年度末までに14科目が開講されました。

 海洋資源科学科では、ICOM科目を中心に、4次元統合黒潮圏資源学プロジェクトで得られた最先端の研究成果を、学生への講義内容に随時含めることで、現在、世界ではどのようなことが行われているのか、何が明らかになっているのか等を彼らに伝えたいと考えています。また座学以外にも実験?実習科目が数多 配置されており、海洋資源の有効利用と持続的管理の知識?技術と意識を持ち、様々な分野で活躍できる人材育成を実施しています。

 このように本学では、内閣のもとに策定された海洋基本計画で謳われている「海洋産業の振興と創出に関わる人材の育成」を目指しており、体系化された総合的海洋管理教育が特色の一つとなっています。

黒潮続流海域の海洋資源調査を行うカナダの研究船John P Tully。このような航海では、さまざまな分野の研究者が乗り込んで総合的な研究が実施される。

II 総合的海洋管理の体系化[2016]

 本学では、平成28年度に従来の農学部が改組され、農林海洋科学部が発足しました。そのなかの海洋資源科学科では、海洋の生物?海水?海底鉱物の各資源と環境を総合的?多面的にとらえ、さらにそれらの維持管理を行うために必要な基礎的知識を有する人材育成を行うことを目指しています。カリキュラムの中には、四国5国立大学が連携して実施する総合的海洋管理(ICOM : Integrated Coastal and Ocean Management)教育プログラムが必修化されています。 折しも、海洋立国日本を確固たるものにするために平成19年に制定された海洋基本法に基づいた海洋基本計画が平成25年4月に改定され、その中には、重点的な取組みとして、「海洋産業の振典と創出に関わる人材の育成」と「海洋教育に関わる人材の育成」が謳われています。

 ICOMプログラムでは、生物?物理化学?地学?水産学等の自然科学のみならず政策論や経済学等の社会科学科目が配置されており、学士課程(学部)の学生が文理統合的な視点から海洋管理について学べる学科は、全国で唯一のものとなっています。

ICOM教育プログラムの概要
(詳細は"/agrimar-icom/index.html"参照)

III総合的海洋管理人材の育成

III 海洋人材育成および地域産業創出[2021]

 沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の感染拡大防止策の影響で延期されていた第14回黒潮圏科学国際シンポジウムを,2021年11月13日(土)および14日(日)にオンライン開催しました。6ヶ国,63機関?大学から総勢287名の参加を得て,プロジェクトリーダーである佐野有司海洋コア総合研究センター長の基調講演,本プロジェクトおよび学内拠点プロジェクト「黒潮圏科学に基づく総合的海洋管理研究拠点」の成果報告を兼ねたテーマセッションに加え,51題の口頭発表ならびに33題のポスター発表が行なわれました。また,さくらサイエンスプログラムによるオンラインプログラムを並行して実施し,フィリピンおよびインドから参加した22名の若手研究者に対して,海洋の鉱物資源および生物資源の持続的な活用や沿岸域の総合的管理に関する5日間の研修を行ないました。さらに,台湾の沿岸域における観光開発や日本の漁業と林業を通した地方創生のフォーラムを開催し,高齢社会の現状と課題について紹介しました。

 本プロジェクトを開始した2016年4月時点での博士修了者は43名でしたが,6年間の実施期間中に34名が学位を取得し,77名とほぼ倍増しました。特に,2013年度および2019年度に採択された文部科学省国費留学生優先配置プログラムの実施等により,フィリピン人学位取得者は18名に上り,2025年度までには合計で約30名の修了生を輩出する予定となっています。このような背景から,2020年度にフィリピン人修了生同窓会(PHILJAPKUS:The Philippines-Japan Association for the Kuroshio Science Promotion, Inc. )を設立し,11月15日(月)に設立記念行事を開催し,フィリピンとともに黒潮流域圏のネットワークを構築してきた台湾の機関も含め,65名の参加者が得られました(写真)。

 黒潮流域圏の国際的な海洋人材育成体制の拡充を図るためプロジェクト期間中にフィリピンおよび台湾の各2大学と新たに協定を締結し,フィリピン:5大学1機関,台湾:4大学との教育?研究ネットワークとなっています。この仕組みを通じて,若手研究者や学部生の短期研修の受け入れや修了生と指導教員の共同研究に対する研究助成事業の採択など,着実に海洋人材育成の成果が積み重ねられています。

 2022年度からの沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网第4期中期計画においても,「海洋」は教育?研究の重要課題のトップに挙げられており,海洋コア総合研究センターの研究活動と農林海洋科学部?専攻(修士課程),理工学部?理工学専攻(修士課程)?応用自然科学専攻(博士課程)等による教育活動とのさらなる緊密な連携を図っていきたいと考えています。また,沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の重点課題の一つである「地方創生」の観点も人材育成に反映させるため,沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网国際交流基金による奨学金プログラムにより,高知県の地場産業の一つである宝石珊瑚を学位研究課題とする博士課程の私費留学生の獲得し,留学生の地域定着を図りつつあります。

設立記念行事の参加者

論文紹介[2021]

 野生動物の保護?管理には,典型的な利用域(ホームレンジ)に加えて,臨時の利用域(周辺サイト)が重要であることを示す証拠が増えつつあるため,標本数に対してプロットされた利用面積の漸近曲線に基づき,典型的な利用面積と臨時の利用面積の両方を含む最大利用面積(MUA)の推定方法を確立しました。

Terayama K., Ehihara H., Seino H., Genkai-Kato M. Estimation of the maximum utilization area including home range and peripheral sites. Ecology and Evolution 12: e8893. (2022) https://doi.org/10.1002/ece3.8893

特許紹介[2021]

 養殖では安定した飼育環境を維持するために,魚の健康状態を非侵襲的にリアルタイムで把握するシステムの構築が求められています。高知工業高等専門学校との共同研究により構築したシステムにより,魚の心臓由来脈波を捉え,この脈波からストレス状態の把握を可能にしました。

発明者:宮田 剛,大島 俊一郎,加藤 元海,三木 克哉,岩谷 真男,藤澤 優

発明の名称:魚類の心臓の状態をモニタリングするシステム

特許番号:6956941

登録日:2021年10月8日

発行日:2021年11月2日

非侵襲的魚類脈波測定システム

論文紹介[2021]

 少ない種類の細胞から成る葉状の多細胞海藻マキヒトエは,無菌条件下で細胞をばらばらにして単細胞状態で取り出せます。この現象を利用して葉部の細胞(葉身細胞)と付着根の細胞(仮根細胞)を単離して培養し,それぞれの分化能力を明らかにしました。

Yutaro Kinoshita, Yoichi Sato, Tetsuya Sakurai, Tomohito Yamasaki, Hirofumi Yamamoto and Masanori Hiraoka. Development of blade cells and rhizoid cells aseptically isolated from the multicellular leafy seaweed. Cytologia 87(1), 1-6, in press (2022)

単細胞化されたマキヒトエ

論文紹介[2021]

 造礁性サンゴの染色体の検出に有用な蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法において,ゲノムDNAの繰返し配列を対象とすることの有用性を示しました。この成果により,分類が困難な造礁性サンゴの種判別の精度の向上が期待されます。

Joshua Vacarizas, Takahiro Taguchi, Takuma Mezaki, Masatoshi Okumura, Rei Kawakami, Masumi Ito and Satoshi Kubota. Cytogenetic markers using single-sequence probes reveal chromosomal locations of tandemly repetitive genes in scleractinian coral Acropora pruinose. Scientific Reports. 11, 11326 (2021)

蛍光法による造礁性サンゴの染色体観察像

2019年度黒潮圏総合科学専攻博士課程秋学期学位公開審査会[2019]

 2020年1月29日に,課程博士および論文博士を合わせた7名の学位取得予定者による公開審査会が44名の参加者により開催されました。四万十川,有明海や大阪湾等の沿岸域に生息する水棲生物の生態に加え,外洋のウミアメンボ,エビ養殖環境改善手法等,様々な対象やアプローチの研究に加え,茶葉の品質に及ぼす土壌の影響や対人援助職従事者の生活リズムを対象とした発表等に対して,活発な議論が繰り広げられました。

写真:会場の様子

フィリピン?カガヤン州ツゲガラオにおける第13回黒潮圏科学国際シンポジウム[2019]

 2019年11月18~22日,フィリピン?カガヤン州立大学で第13回黒潮圏科学国際シンポジウム “Climate Change Adaptation and Mitigation towards Sustainable Fisheries Resources Along Kuroshio Region”が,フィリピン農業省漁業?水産資源局第2地域支所と共同開催されました(このシンポは2007年から高知大,台湾?フィリピンの協定校でローテーション開催)。

 協定校のフィリピン大,ビコール大,パルティド州大はじめ,フィリピンの大学?機関を中心に136名がシンポに参加しました。高知大からは教員4名,大学院生6名が参加,諸岡名誉教授が基調講演,久保田教授,卒業生の坂口穂子氏が総会講演を行った他,教員2名,大学院生6名が個別報告を行いました。

(1) Fisheries Biology and Oceanography,(2) Fishery Resource Management,(3) Fisheries Socio-Economic, Seafood Safety and Processing Technology,(4) Ecological Habitats and Climate Sciencesの4つのセッションで,個別研究報告と活発な討論が行われました。

黒潮圏総合科学専攻新保輝幸教授によるフィリピン?台湾との沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の国際連携の沿革紹介

2019年度「さくらサイエンスプラン」によるフィリピンおよび台湾からの若手研究者受け入れ[2019]

 科学技術振興機構(JST)「さくらサイエンスプラン」の支援のもと,2019年9月29日から10月5日までの7日間,フィリピンならびに台湾の大学?研究機関から11名(大学院生10名と教員1名)を招聘し,『黒潮圏流域?沿岸域における持続可能な開発を担う学術人材ネットワークの構築と連携強化』をテーマとしたプログラムを実施しました。高知県の自然環境を活かしたフィールド見学や,先端科学技術の導入されている研究室や企業訪問,「持続可能な沿岸資源の利用と観光」をテーマとしたCross border educationセミナー,文化体験などを実施し学術交流を図りました。

海藻の微細構造観察

集合写真

2019年度春学期学位授与式[2019]

 2019年9月20日に,国費留学生優先配置プログラムで来日していた2名のフィリピン人博士課程留学生が修了式を迎えました。学位研究として実施された気候変動下での熱帯性魚類の生息場所選好性や甲殻類に寄生する等脚類の宿主特異性などの海洋生物の生態に関する知識や経験が,今後の共同研究活動や沿岸域の環境保全活動等の発展へ活かされることが期待されます。

2名のフィリピン人修了生

フィリピンラゴノイ湾沿岸に生息するウナギ資源に関するフォーラムの共同開催[2019]

 フィリピンルソン島東南部に位置するビコール地方沖は,絶滅危惧種として知られるニホンウナギのシラスウナギの通過経路と考えられていますが,この流域河川に生息するウナギの種についてはほとんどデータがありません。ビコール大学との共同研究で進めている形態観察や分子分類研究の成果発表会(Aquatic Forum for “The Eel Fishery in Tributaries along Lagonoy Gulf: Implication to Management and Conservation”)を共同開催しました。

発表の様子

フォーラムの参加者

フィリピンカタンドアネス州立大学との学術交流協定締結[2019]

 北赤道海流が北向きに方向を変えて黒潮となる海域に最も近い,フィリピンビコール地方の東部に位置するカタンドアネス島で唯一の総合大学であるカタンドアネス州立大学との大学間交流協定を締結しました。2019年6月3日にMinerva I. Morales学長をはじめとする役員や学部長等の出席の下で開催された協定書の署名式典に出席しました。

調印式後の写真撮影

III 海洋人材育成および地域産業創出[2018]

 2014年度から博士課程を受け入れている「国費留学生優先配置プログラム」の第2期生が2018年9月に修了しました。また、同10月にはフィリピンビコール大学、パルティド州立大学およびカタンドアネス州立大学の若手教員が第5期生として入学し、新たに学位研究をスタートさせました。

 黒潮流域の台湾?フィリピンを中心とした若手研究者のネットワーク作りと育成のため、2018年度もJSTのさくらサイエンスプランプログラムにより8名の若手研究者を迎え、海洋コア総合研究センター、海洋生物研究教育施設等の海洋研究施設に加え、陸域の重要性にも目を向けてもらうため森林総合研究所を含めて視察プログラムを準備しました。また、帰国後の参加者ネットワークの継続を狙い、初めての試みとして台湾およびフィリピンからそれぞれ引率者も招聘し、セミナーでの講演を依頼しました。

 将来的な私費大学院留学生の増加を目指し、2名の学部生に対する短期交換留学プログラム(受入)を実施しました。4週間にわたり海洋生物由来の食品学?分子細胞生物学的実験の知識や技術、環境経済学的解析などの講義や実習を受講して帰国しました。帰国後はプログラムへの参加報告会の実施を提案し、沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网への留学機運を高める取り組みを行ないました。

 また、修了生の研究環境をサポートするため、フィリピンバタンガス州立大学の海洋研究施設に着任した修了生へ、日本の民間財団が実施する研究助成事業への研究費申請に対する助言や推薦を行ない、採択されました。

パルティド州立大学における短期交換留学プログラム報告会

“KU-CSU 2019 Symposium on International Collaboration for Education and Research”[2018]

 黒潮源流域のフィリピンビコール地方カタンドアネス州立大学において、2019年2月21日(木)に、“KU-CSU 2019 Symposium on International Collaboration for Education and Research”が開催されました。当大学からは、2014年度から3名のさくらサイエンスプランプログラムによる若手研究者を受け入れています。また、2018年10月からは、博士課程の学生として、若手教員が黒潮圏総合科学専攻で学んでいます。今後の教育?研究の交流を活発化するため、国際交流協定の締結に関する議論が行われました。

カタンドアネス州立大学Minerva I. Morales学長

シンポジウムに参加した役職員や国際連携部門スタッフ

平成30年度「さくらサイエンスプラン」による若手研究者受け入れ[2018]

 科学技術振興機構(JST)「さくらサイエンスプラン」の支援のもと、2019年1月20日~27日の8日間、フィリピンならびに台湾の大学?研究機関から10名(大学院生8名と教員2名)を招聘し、『黒潮圏流域の「沿岸域の海洋管理」を担う学術人材ネットワークの連携強化と拡大』をテーマとしたプログラムを実施しました。分野横断的なコンセプトに力点をおいた本プログラムでは、黒潮圏流域?沿岸域から陸域まで幅広いフィールドにかかる先端科学技術の見学?体験を実施し、学術交流を図りました。

“Training of Marine Fish Larvae Taxonomy”の共同開催[2018]

 フィリピンの若手研究者への稚魚の形態分類に関する知識や技術の普及を目的として、2019年1月10日(木)~14日(月)に、本学の協定校であるフィリピン大学ビサヤ校において、 “Training of Marine Fish Larvae Taxonomy”が開催されました。本学からは、海洋生物研究教育施設の木下泉教授に加え、黒潮圏総合科学専攻の修了生が招聘されるとともに複数の在学生も運営スタッフ等として参加しました。

フィリピン大学ビサヤ校Wilfledo Campos教授

参加者および運営スタッフ

国立中山大学(台湾?高雄)における第12回黒潮圏科学国際シンポジウム
(Joint symposium of the 12th Kuroshio Sciences and South China Sea marine stations)[2018]

 第12回黒潮圏科学国際シンポジウム(2007年度より沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网と台湾、フィリピンの協定大学のローテーションで実施)は、2018年11月18日~21日の期間、台湾高雄市の国立中山大学において、東シナ海臨海実験所会議とジョイントで開催され、黒潮圏諸国 (日台比の他、 インドネシア、マレーシア、ベトナム、シンガポール等)の大学?研究機関から約70名の研究者?学生が参加しました。沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网からは教員1名、大学院生4名が参加、研究発表を行った他、我が国からは九州大学スタッフ2名やグアム大学の日本人研究者らが参加しました。シャコ貝の保全、海藻の生物学、海洋生物学一般の3本の大きなセッションの他、学生の研究発表のセッションが立てられました。

 また東シナ海に面する14ヶ所の臨海実験所の研究者らが自らの施設を紹介、その連携について討議しました。最終日午後はエクスカーションとして市内の高雄展覧館での国際漁業展見学や湾内クルージングが行われました。

シンポジウム参加者

湾内クルージング終了後の集合写真

国費留学生優先配置プログラム第2期修了生輩出[2018]

 平成30年度、黒潮圏総合科学専攻では5名の修了生を輩出しました。そのうち4名は国費留学生優先配置プログラム「黒潮圏の持続型社会形成を目指す人材育成プログラム」の第2期修了生です。国費留学生のフィリピン人2名、私費留学生のベトナム1名と中国人1名が、フィリピン、ベトナム、中国、沖縄、高知を舞台に、藻類やマングローブ林魚種の種多様性、沿岸魚類の稚魚初期生活史に関する研究を精力的に展開し、7月25日の公開審査会でそれぞれの成果を発表しました。9月20日の修了式では、ベトナム人留学生が修了生を代表して謝辞を述べました。3年間の留学生活で学んだ日本語を駆使して、時には詰まりながら、本学と指導教員への感謝の気持ちを懸命に読み上げる姿に櫻井学長をはじめ参加者全員が微笑ましく耳を傾けていました。

III 海洋人材育成および地域産業創出[2017]

 10年を超えるフィリピンおよび台湾を中心とした東南アジアおよび東アジア諸国との連携体制に基づき、沿岸域の総合管理に関する人材育成活動を続けています。2017年7月に第11回黒潮圏科学国際シンポジウムを開催し、30名を超える海外からの参加者を迎え、今後のネットワークの充実に向けて活発な議論が行なわれました。また、それに先立ち平成26年度に国費留学生優先配置プログラムで受け入れた第1期生の学位公開審在 会を実施し、参加者より多くの助言が得られました。さらに、JSTのさくらサイエンスプランを利用し、フィリピンから6名の、台湾から4名の若手研究者を招待し、公開審査会やシンポジウムヘの出席、沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の研究機器施設の見学に加え、第3回クロスボーダーエデュケーション企画へ参加し、マイクロプラスチックによる海洋汚染をテーマに討議し、理解を深めました。

 また,2017年12月にはフィリピンビコール地方南カマリネス州のパルティド州立大学と交流協定を締結しました。同大学のラウル?ブラデシナ学長は本学で学位を取得し,その後はビコール地方ラゴノイ湾周辺の海洋保護区を中心としたフィールドでの環境経済学で共同研究を続けてきました。今後は、博士および修士課程の学生の受け入れや学部生の交換留学により、連携関係を深化させていく予定です。

 一方、2018年2月に実施された博士課程の中間発表会では、「地下海水を活用した海藻陸上生産の実証研究」と題して、研究活動の傍ら複数のベンチャーを起業した学生の活動が紹介されました。沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网での研究成果に基づき、ビジネスがより一層発展することを期待しています。

クロスボーダーエデュケーション

博士課程の中間発表

フィリピンバタンガス州立大学海洋研究拠点の設置と本学修了生の運営責任者就任[2017]

 フィリピンの首都マニラから80kmあまり南に位置 するバタンガス州立大学では、海洋研究拠点 "Verde Island Passage Center for Oceanographic Research and Aquatic Life Sciences (VIP CORALs)" を2018年当初に設置し、国費留学生優先配置プログラムの第 1期修了生の一人、 Jayvee Saco博士が運営責任者へ就任しました。2018年3月8日に久保田賢教授が訪問し、今後の沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网との連携について打ち合わせを行いました。

連携に関する打ち合わせの様子

Jayvee Saco氏によるVIP-CORALsの紹介

フィリピンパルティド州立大学との大学間交流協定締結および記念セレモニーの開催[2017]

 フィリピンビコル地方南カマリネス州のゴアを中心に7キャンパスを展開しているパルティド州立大学と2017年12月18日に大学間交流協定を締結し ました。同大学のRaul Bradecina学長は、日本学術振興会のRONPAKU制度により沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网で学位を取得されており、ビコール地方ラゴノイ湾に設定されている複数の海洋保護区を対象とした共同研究を長年 実施しています。

 交流協定締結を記念して、2018年2月16日に記念セレモニーを開催するとともに、今後の共同研究の展開について講演を行ないました。

Raul Bradecinaパルティド州立大学学長と新保輝幸黒潮圏科学部門長の握手の様子

共同研究展開の提案に関する講演

ビコール大学バイオテクノロジー推進会議企画?発表[2017]

 沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网の協定校であるフィリピンビコール大学では、 2017年に複数のキャンパスで予算を獲得し、 遺伝子実験用の機器が導入され始めました。フィリ ピン大学や日本の大学で遺伝子実験を経験した教員だけでなく、その他のスタッフや大学院生が新たに 実験を計画して研究を進められるよう、ビコール大学研究コーディネーターのAlex Camaya博士(沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网で博士の学位取得)と協働して、講演および講習を企画し、ハンズオンセミナーを実施しました。

バイオテクノロジ推進会議におけるバイオ実験セミナー

導入機器や実験器具による食品工学科 学生への実験デモンストレーション

"ASEAN International Symposium on Research and Scientific Publishing"による招待講演[2017]

 2017年9月にフィリピンビコル地方のカタンドアネス州立大学でASEAN International Symposium on Research and Scientific Publishingが開催されました。このシンポジウムは同大学ならびにビコール地方の大学に所属する生物多様性や資源管理に携わる若手研究者の研究能力向上を目的にしており、 ASEANの研究者に加え、本学から2名の教員が招待され基調講演および論文執筆指導等を行いました。

開催セレモニーでのテープカットの様子

シンポジウム講演者の集合写真

第11回黒潮圏科学国際シンポジウムと国費留学生優先配置プログラム第1期修了生輩出[2017]

 黒潮圏総合科学専攻では、2017年7月23日から27日に第11回黒潮圏科学国際シンポジウムおよび学位論文公開審査会、JSTのさくらサイエンスプランによる青少年招聘事業を同時開催しました。公開審査会では、国費留学生優先配置プログラム「黒潮圏の持続型社会形成を目指す人材育成プログラム」の第1期修了生となるフィリピン人留学生3名が藻類の光合成や海洋資源保全?管理に関して発表しました。主要なシンポジウム参加者に国費留学生の研究内容に関するアンケートを実施したところ、研究テーマやプログラムによる人材育成の面で高い評価を得ました。一方、留学生には優先配置プログラムに関して聞き取り調査を行い、プログラムの教育内容について高い評価を得ました。さくらサイエンス プランではフィリピンから6名と台湾から4名の若手研究者を招聘し、専攻学生とともにシンポジウムでの発表の機会を提供するとともにクロスボーダーエデュケーション企画として沿岸域のプラスチック汚染問題をテーマに討論することを通して分野横断型教育? 研究の重要性への理解を促す プログラムを実施しました。

シンポジウムおよびさくらサイエンスプランヘの参加者

シンポジウムのオープニングセレモニーの様子(朝倉キャンパスメディアホール)

「さくらサイエンスプラン」によるフィリピン 台湾からの参加者および黒潮圏総合科学

科学探査船タラ号が土佐湾でサンゴ調査を実施[2017]

 フランスの科学探査船タラ号が、太平洋全域でのサンゴ礁生物多様性調査の一環として土佐湾で調査を行いました。 2017年4月1日に高知港で行われた船内見学会には、沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网農林海洋学部および黒潮圏総合科学専攻の教職員? 学生ら150名が参加しました。沙巴体育平台_新沙巴体育投注-中心*官网は研究パー トナーとしてタラ号の日本での調査に協力しました。

タラ号の見学会実施地

横浪におけるサンゴ等の調査の様子

高知港に寄港したタラ号の船内見学会の様子

第2回「クロスボーダー?エデュケーション」を開催[2016]

国境を越えた沿岸管理人材育成を目指したフィールドワークとグループ討議を主体としたプログラムです。2016年11月にフィリピンのビコール地方において、フィリピン、台湾、中国、ベトナムの若手研究者や大学院生の参加により実施されました。

海洋保護区(MPA)が設置されているサンミゲル島でのフィールドワークの様子

MPAの管理に関わる現地組織関係者を交えたグループ討議の様子

日本生態学会中国四国地区会優秀賞受賞[2016]

 日本生態学会中国四国地区会において,黒潮圏総合科学専攻博士課程の邊見由美さんが,「共生性ハゼ類ヒモハゼ及びチクゼンハゼによる 宿主特異性:野外調査と室内実験による検証」の題目で優秀賞を受賞しました。


III 海洋人材育成および地域産業創出[2016]

 本学では、国立大学法人化した2004年に、全国初の文理融合型独立大学院博士課程として、「黒潮圏海洋科学研究科」を設置し、平成27年度までに34名の課程博士と9名の論文博士を輩出してきました。黒潮流域のフィリピンや台湾をはじめとする東南アジア地域を主な対象フィ ールドとして交流協定を締結するとともに共同研究室を現地に設置し、多くの外国人留学生に対して学位を授与してきました(11の国や地域計17名)。

 このような国際的な教育活動を足掛かりにして、平成26年度からは文部科学省の国費外国人留学生の優先配置を行う特別プログラムに採択され、「黒潮圏の持続型社会形成を目指す人材育成プログラム」により、フィリピンから毎年3名の留学生を受け入れるとともに、台湾、日本や周辺国の大学院生の参加による「国境を超えた教育?研究の推進(クロスボーダー?エデュケーション)」にも取り組んでいます。

 本グループでは、文理融合型の博士課程である黒潮圏総合科学専攻を中心として、海洋および陸域の双方の実情を理解し、沿岸域の総合的管理に貢献できる国際人材の育成を目指しています。

黒潮圏諸国をフィ ールドにして 山から海のつながりや沿岸社会による環境保全などを題材にした人材育成を行なっています。